21歳、モロッコ(鈴木ゆうりさん #2)

それから、憑き物が落ちたかのように落ち着いたわたしに、男の子がアラビア語で話しかけてきて絵本を読んでくれて、隣の席の女の子と拙い英語でぽつりぽつりと小噺をして、列車の軋む音を後ろに時間が流れていきました。

終点前の小さな駅で、3人はコンパートメントを去っていきました。外では平べったい山が重なり合い、隙間を少し保ちながら生えている針葉樹林が風に身を任せてその枝をしならせています。ゆっくり息を吸うと、湿度を失った乾いた空気がしっかりと肺を満たしては、外に排出されて、わたしの一部が景色に混じっていくかのようでした。

3人の背中を見送る前に、嗚咽を漏らすように軋む音を響かせながら、終着点へ滑りだしました。

*

結局、3人とは連絡先は疎か、名前も分からないままお別れしてしまいました。
きっとこの先の人生で、わたしたちの人生が交錯することは、起こらないのだと思います。

それでも、あのコンパートメントの中の温もりが、サンドイッチの味が、あの笑窪を浮かべた微笑みが、わたしに息の仕方を教えてくれるのです。

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