ベンツって言いたい。(ふつうエッセイ #654)

次男に空前の車ブームが到来している。

コロナ禍に入ったとき、ちょうど2歳半の長男が車に夢中になった。あらゆる車を指差して「あれは何?」と聞くようになり、車に詳しくない僕はスマホで調べながら応えたものだった。

長男はメーカーだけでなく、車種まで憶えることができた。日産のNV100クリッパー、NV200バネット、NV350キャラバンの違いも言い当てて、とあるディーラーでは「車博士」と呼ばれた。今は自動車熱は落ち着き、昆虫とウルトラマンに夢中になっている。たまに「この車、何か憶えてる?」と聞くが、残念ながら車種は記憶の外へ消えてしまったようだ。(まあ、今も夢中になる対象があるわけで、十分幸せなことといえるだろう)

長男に比べると、次男の車ブームは非常にマイルドだ。ビシバシ言い当てるわけではないというか、正解不正解に頓着していない感じがある。「あれは何?」は聞くけれど、自ら答えるのは控えていた。というかあまり憶えるつもりがないようだ。

まあ、そういう性格なのだろうと思っていたのだが、先日おもむろにベンツを指差し「ベンツ!」と言い当てていた。東京は良い車が多いものの、割合的にはやはり国産車の方が多い。それでも次男にとって、最初に識別した車は「ベンツ!」だったのだ。

やっぱりベンツは違うのだろうか。かっこいいのだろうか。単純に語感として言いやすいのだろうか。

別にベンツを低く見積もっているわけではないけれど(そして僻みでもないのだけれど)、僕はベンツをほしいと思ったことは一度もない。そもそも車の運転が苦手で、東京で車を保有するなんて考えてもいない。だけど子どもは、なんだかんだベンツが輝いてみえるのだ。なんだか面白いなあと思う。

ちなみに最近は、トヨタ、日産、ホンダの順で、別のメーカーの車も憶えられるようになった。日産とボルボはロゴが似ているようで、しょっちゅう間違っているが。

ちなみに5番目に憶えた車は、BMW。まだ滑舌がはっきりしない中で、「べえむだぶう〜」という次男の姿が、愛おしくて仕方がない。