他人になれない、不思議な縁。それが家族~母の横顔、父の背中に感じた愛(安藤エヌさん #2)

後日、父は大学へ連れ立ち、教授の元へ行き頭を下げた。

「どうか娘に単位を与えてくださるよう、お願い致します。娘も努力致します」

その姿を見て、私の頭の中には親子を描いたドラマでいう常套句の、「父の背中はこんなに大きかったんだ」という言葉が駆け巡っていた。実際に見えた背中は小さかったのだが、私の今までの人生がその時の光景に重なった時、誰よりも頼れる大きな背中に映ったのだ。

誰かが私の人生の脚本を書いているのでは無いかと疑うほど、その一連の出来事はドラマめいていた。そしてそういう時に、自分の不利益や苦労などを度外視して行動できるのが「家族」という繋がりなのだと感じた。下手すると感激して涙してしまうほどに強い絆で、そしてあまりにも身近な人の繋がりだということに気付いたのだった。

父の頼みで教授が考慮し、用意された特別課題をひととおりこなした後に単位を取得、無事大学を卒業した。証書授与式は半期卒業だったため、こぢんまりとした会議室のような場所で行われた。他の卒業生の目を憚らずに号泣してしまい、授かった証書には今でも涙のあとが一滴、消えずにいる。

人生は映画のように上手くいかないけれど、小説のようだとは思う。ゆっくり一言ずつ紡いでいって、晩年になったら最初から読み返す。それに気付けたのも、もしかしたら病気という谷を乗り越えてきたからかもしれない。

血の繋がりがもたらす情はあれど、父のことを本当の意味では好きになれない私も、母と心底離れがたいと思っている私も、今ここにちゃんといる。何者でもない私が、不可解でわずかに温かい、ひとりの人間の形をした愛というものを抱えて生きている。

いつかこんな風に、愛について複雑に思っているのも懐かしくなるのだろうか。そうしている内に暮れていく日々をみすみす見過ごしながら、今日も無条件に愛おしい、温かな猫を抱く。

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