寄り添ってうなずいて<彼女の言葉③>(Yoshiyuki Hadaさん #3)

僕の学校での立場は、非常勤講師だ。担任を持たず、部活や委員会も担当せず、授業だけをしに学校に来る人という位置づけ。だから、生徒との接点は、ほぼ50分の授業だけ。それでも、生徒のことをちゃんと気にかけている、見ているよ、ということ伝えたくて、今でも生徒に対して時々言ってしまう。

「相変わらず◯◯さんは考えていることが深いね」
「その進路選択は◯◯さんらしいですね」

のような声かけ。そんなときは、いつも、しまったと後悔をする。あの夜、彼女が僕に対して向けたように、きっぱり突き放すような顔を生徒がしていないだろうか。生徒が、僕がわかったような態度をとったことを咎めるのではないか、と。

幸い、これまで「先生、わかったような口利かないでよ」と言われたことはない。逆に、恥ずかしそうに笑みを浮かべる生徒もいる。ただ、それでも安心してはいけない。僕は言い聞かせる。僕は生徒の一部分しか知らない。全部をわかったような気になってはいけない。

教室で、「それな」という生徒の誰かの合いの手が聞こえると、胸のうちがざわざわする。生徒の間で交わされる「それな」という言葉は、絶妙なタイミングで、ぴしっと発せられる。相手との相互理解、共感が大事な中高生にとっては便利な三文字なんだろうと思う。重くならない、適度な軽さでやり取りされる言葉。だけど、僕は、「それな」という言葉に、相手に覆いかぶさるような上からの圧力を感じて、息苦しい。

あのときの彼女に、「それな」と言った日には、露骨に嫌な顔をされてしまいそうだ。こっちは、彼女の気持ちに寄り添うつもりで共感を示したとしても、恩着せがましく覆いかぶさってくるな、と言われそう。僕は、カノジョとのやり取りを勝手に想像して、苦笑いを浮かべる。

カノジョの3つ目の言葉は、「私のことを全部理解しているみたいに話さないで」のように相手を変えて、場面を変えて、僕の人生に登場する。初めて言われたときに十分痛みを感じたはずなのに、人はなかなか変われないものだ。

「目の前にいる私を、助けて」
「あなたにはわからない人の気持ちがわからない」
「私のことを知ったような口を利かないで」

僕は、3つの言葉を抱えて、これからも生きていくんだろう。

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