寄り添ってうなずいて<彼女の言葉③>(Yoshiyuki Hadaさん #3)

あの夜、彼女は、珍しく自分の家族のことを話し始めた。まだ会ったことがない彼女の家族の話。人によっては、素の自分をさらけ出してくれている、と嬉しく思うかもしれない。彼女が自分の家族の話をし始めるというのは、ありのままの自分を開示してくれているようで、付き合いが深まりつつあるサインなのかもしれない。

だけど、正直、僕はこの手の話は苦手だ。僕自身の家族の話をすることもあまり気が進まない。何をどう話せばいいのかわからないし、自分の弱さをさらけ出すようだから。家族の話をすることが弱さの証明だなんて、誰にも言われたことがないし、どこに書いてあるわけでもないけれど、僕はなぜかそう思っていた。彼女による家族の話が苦手なのも同じ理由だ。カップルがお互いの家族の話をすることが、弱みを共有する儀式みたいで、気が滅入ってしまう。強くあるべき、と半ば強迫観念的に信じてきた僕にとって、家族語りには抵抗があった。

僕の戸惑いをよそに、彼女は家族の話をぽつぽつと話す。彼女がどんな話をしていたのか、今となっては覚えていない。どちらかというと、重い話題だった気がする。明るい家族エピソードではなかったことは確かだ。ただ、彼女は泣いてはいなかった。これまで、しずしずと泣くような彼女とは付き合ったことはなかった。僕は、彼女の肩を抱いて、うんうんとうなずく。うんうんわかるよ、と彼女が言葉を選んでいる途中でも、僕は相槌をはさんだ。彼女が少しでも言い淀んだときは、優しく、だけど明確にそれとわかるように抱きしめた。

少し沈黙の時間があって、彼女は、言った。肩を抱く僕の手を振り払うことはしなかったけれど、その言葉は、僕を突き飛ばした。

「私のことを知ったような口を利かないで」

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