寄り添ってうなずいて<彼女の言葉③>(Yoshiyuki Hadaさん #3)

僕はいったいどうしたらよかったんだろう。彼女のことをわかろうとして、寄り添ってうなずいていただけなのに。わからない人の気持ちをわかろうとして、強いところから降りてきただけなのに。カノジョは一体、僕に何を求めているのだろう。

僕は、遠くに意識を向けることなく、彼女に意識を集中させていた。私の気持ちなんてわからないのよ、と言われないように、わかろうと努力した。うん、そうだよね、と何度も肯定して、彼女の肩に回した腕に力を込めた。

でも、彼女はそれを共感として認めなかったんだと思う。相手を見切ったような言い方と上からの目線。世間一般には包容力という名で呼ばれるごまかし。全部、彼女が求めていたものではなかった。

彼女は、家族についての悩みを僕に解決してほしかったのか。いや、それは違うはずだ。彼女はそんなタイプじゃないし、ただ悩みを聞いてほしかっただけだろう。結婚相手や付き合っている彼氏彼女の家族の悩みなんて、自分がどうこうできるものじゃない。はなから解決なんて無理だ。それじゃ、僕が家族の話題が苦手なのにもかかわらず、無理して相槌を打っていることが気に障ったのか。いや、あの夜に限っては、僕は真剣に彼女の話を聞いて、苦手意識がにじみ出る余地はなかったはずだ。では、僕はどうすればよかったんだろう。

あなたには弱い人の気持ちがわからないのよ、という言葉は、もっとこっちにきて、というメッセージだと思っていた。誘う言葉、というほど甘美なものではないけれど、目の前にいる私を助けて、私を見て、私のことを理解して、という強く引きつけるメッセージ。僕は、その期待に応えるために、遠くを見遣っていた目線を近くに寄せて、強く高みを目指していたところから降りてきた。

ところが、両の手のひらでつかもうとしたその愛は、ふっと消えてしまう。優しく愛を込めてつかまえようとすればするほど、一瞬で消えてしまう。まるで雪の結晶のように。学校の教室で、僕が愛の結晶を思い浮かべることは、もはやないけれど、カノジョの言葉は教室の中でもふっと思い出す。

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