強くありたいだけなのに<彼女の言葉②>(Yoshiyuki Hadaさん #2)

「あなたの前にいる私を見て、助けて」というカノジョの言葉にはっとさせられ、思い知らされ、僕はすぐ近くに愛を向けることを意識し始めた。だけど、何ができるわけでもないのに、遠くの国の人の幸せを願うことはやめられそうにない。

目の前の人を救うことと、遠くの国の人を助けること。この2つを両立させて、どちらも成し遂げるためには、強くならなくてはいけない、と僕は思った。それは、中学生のときに読んだマンガで学んだことだった。自分の信念と好きな人を同時に守るには、より強くなくちゃいけない。マンガの世界では、魔物を倒す剣術や大地を焦がす魔法を習得することになるけれど、現実の世界ではスーパーマンを目指すのではなく、強く折れない心を持つこと、目標に向かってひたむきに頑張ることだ、と僕は自分に言い聞かせてきた。

強くなるんだと自分に言い聞かせてきた理由はいたってシンプルだ。それは、1つのことに集中するよりも、2つ以上の複数のことを同時にこなすことのほうが大変だと考えたから。1つことをやり抜くことや1つのものに愛を注ぐことも、ブレない強い心がないとできないことなのに、当時の僕はそんなことには気がつかなかった。そんな僕に、カノジョは別の言葉を投げかけるのだが、その前に少し時計の針を戻す。

大学生になって初めて留学するまで、僕は、英語が話せなかった。幼少期に海外在住経験があったわけではなく、高校での英語も適当にやっていた。大学で交換留学に応募したときに英語圏ではなくオランダを選んだのは、英語が得意な他の学生との競争を避けて、確実に交換留学の権利を勝ち取るためだった。そして、そのオランダでも苦労することになる。

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