誰かのために汗をかく<彼女の言葉①>(Yoshiyuki Hadaさん #1)

一年間をかけて準備していたおかげで、現地では、いわゆる先進国からの訪問者としてお客さま扱いされるのではなく、地元のスタッフや村人と一緒になって仕事をすることができた。そして何よりも、子どもたちの笑顔。ただ、残念ながらバングラデシュで彼女はできていない。今も胸に刺さっている言葉は、バングラデシュの彼女に言われたものではない。

この国際協力NGOでインターンをしている時期に、僕には彼女がいた。バングラデシュの人のために汗をかいている間、僕は彼女を少し放置しすぎていた、らしい。らしい、というのは、僕にはその意識がなかったからだ。別に、遊んでいて連絡を取らないわけでも、もちろん別れたいわけでもなかった。むしろ、僕がやっていることを理解してくれていると思っていた。誰かのために、一生懸命に働くこと。頑張る自分をわかってくれているもんだと勝手に整理していた。

そんなときに、言われたのがこの言葉だった。

「遠くの国の人だけじゃなくて、目の前にいる私を、助けて」

今となっては、東京で隣に座っているときに発せられた言葉なのか、ダッカにいるときにSkypeの画面越しに投げかけられた言葉なのか、覚えていない。明るかったか、暗がりだったか、はっきりと思い出せないけれど、白昼の出来事というイメージがないから、夜だった気がする。記憶が定かではないけれど、このときの胸の締めつけは、今でも覚えている。

助けてのSOSを出すほど彼女を放っておいたなんて、それに気がつかなかったなんて。「助けて」って、とても重い。いったい何があったのか、一瞬ドキッとした。僕は、彼女の顔をまじまじと見て、発された言葉の意図を探る。どうやら切迫した状況ではないらしい。寂しかったのか。だけど、彼女は泣いてはいなかった。というか、急に泣き出す彼女とは付き合ったことはなかった。だとしたらなんだったんだろう。

私のことをちゃんと見てよ、気づいてよ、ということだったのかもしれない。彼女との時間を大事にせずに、別のことにかまけている僕をなじりたかったのかも。それか、私のことも助けられないくせに、というメッセージだったか。それは僕にとって重くのしかかる。

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