送りバンド禁止(ふつうエッセイ #391)

小学生の野球クラブの指導者をやってみたい。

サッカーじゃなくて、野球が良い。僕自身が野球部を経験してきたこともあるが、何より少年野球のおかしな「定石」に一石を投じたいのだ。

野球クラブとは、おそらく子どもの親から同じ金額の会費をもらうのだろう。本人の都合で欠席したらともかく、もらう金額に差がないのであれば、練習量や試合出場時間などは全て等しくするのが筋だろう。

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前述の通り、僕は中学で軟式野球の部活に所属していた。

当時のチームの雰囲気や監督の指導法にすっかり嫌気がさして、高校では別のスポーツの部活を選択した。

すると高校の野球部監督がわざわざやってきて「お前は中学で野球をやっていたのだろう。どうしてウチの野球部に入らないのか」と圧をかけてきた。あまりに横柄な態度だったので、今も憶えている。

入るわけがない。

あれだけいじめられて、試合に出ても1打席しか与えられなくて、僕の自尊心はすっかり損なわれてしまったのだ。今思えば、さっさと得意な競技に移った方が良かったのに、「逃げ」じゃないかと思って辞められなかった。

中学の3年間ほど、「やり直したい(だけど絶対に戻りたくはない)」と思う時間はない。

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話は、野球クラブの指導者に戻る。

試合出場時間が同じだけでなく、僕はヒッティングのサインしか出さない。「待て」のサインくらいは出すだろうが、送りバンドなんて絶対にやらせないだろう。なぜなら、バットに当たれば、ヒットになるかもしれないからだ。また仮に三振したとしても、生きたボールに対峙したことで学びになることが多いはずだ。試合が終わった後に「あれ速かったなあ、どうやって打てるだろうねえ」と話し合いをしたい。当てるだけじゃなくて、思い切ってバットをぶん回す。三球三振上等だ。次の試合は打ち勝てるかもしれない。

上原浩治さん曰く、観覧した小学生の全国大会で、2アウトランナーなしから申告敬遠を命じた指導者がいたという。

論外だ。

打たれて何が悪いというだ。繰り返しになるが、打たれた後に「あの子、凄かったなあ。どうやったら三振取れるようになるだろうねえ」と話し合いすれば良い。

ベンチ入りのメンバーが限られているなら、ベンチ入りメンバーぴったりしか野球クラブには入れてはいけない。間口を広げたいなら、2チーム作るべきだ。同じお金を払ってるのに、出場機会が与えられず応援だけなんて何を考えているというのか。

子どもはなぜ野球部に入りたいと思うのか。

それは、野球が好きだからだ。大谷翔平さんのようになりたいと思って、野球部やクラブチームの門を叩くのではないか。だとしたら、下手でも、身体が小さくても、思う存分、プレーさせてあげれば良い。

もちろん、給料をもらって働くプロは別だ。目標を明確に掲げられる大学生あたりも、勝利に徹した野球をやっても良いかもしれない。

だが、と思う。

野球をやりたい。その純粋な出発点を、なるべく維持してあげるべきだ。たぶん僕は、そういった指導をブレずにできる。その自信はある。

「今日も監督のせいで勝てなかった。だけどめちゃくちゃ野球は楽しいよ!」

そんなことを、嬉しそうに話してくれるような子どもと共に、野球できたら最高じゃないか。