25歳、アルゼンチン、時々ウルグアイ(鈴木ゆうりさん #3)

わたしたちがゴールテープを切ったのは、スタートしてから5時間以上過ぎた頃でした。

先にゴールをしたランナーたちが、わたしたちを待ってましたとばかりに抱擁してくれます。ゴールの横にいた運営のスタッフさんが、おめでとうと完走メダルをかけてくれました。
ここまで一緒に走ったダニエルと、この達成感、喜びを分けあいたくて、わたしは彼の方を振り向きました。

ダニエルはその垂れ目の目尻を更に下げ、その目尻からはぼろぼろと水滴を零していました。

父親ほどの年の男の人が泣いているのを目にするのは、祖父が亡くなった高校生の時以来。叔父が出棺の挨拶をしながら、充血させた両の目からほろほろと涙を滴らせていたぶりです。
そしてダニエルから滴り落ちているのは、叔父の涙とは異なる種類の、暖色の感情が溶けた涙の粒でした。

「ユウリ、グラシアス、ムチャスグラシアス」(ゆうり、ありがとう、本当にありがとう)

涙や汗が入り混じった顔で、半分笑って、半分泣いて、ダニエルはわたしの両手を握りました。

本当は集団とはぐれたところで、足の痛みから棄権も頭によぎったこと。
わたしと一緒に走りだしたことで、痛みが少なくなったこと。
最後まで諦めないでゴールテープを切れたこと。

「君が、君が、一緒に行こうと言ってくれたから、走り切れたんだ」

ありがとう。

腕には汗のかきすぎで白い塩の粒が輝いていました、土埃で全身はどろどろです。それでも、もうそんなことはどうでもよかった。わたしの鼻の奥がツンとして、目に水の膜が貼って溢れるのも時間の問題になっています。
わたしの腕は自然とダニエルの背中に、ダニエルの腕は自然とわたしの背中に回っていました。

あの時、一緒に行こうと言い続けて本当によかった、ダニエルと、このレースを完走できて本当によかった。

気づいたら、わたしたちはお互いに笑いながら泣いていました。

そのとき、わたしの目に映っていた涙は、その瞬間に存在している何よりも美しく輝いていました。

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