25歳、アルゼンチン、時々ウルグアイ(鈴木ゆうりさん #3)

ダニエルに再会したのは、そこから数キロ走った25キロ地点。

「ダニエル!」
「ユウリ!コモエスタス?」(ゆうり!元気ですか?)
「ムイビエン、ペロ、ポキート、エストイカンサダ」(うん、元気!でもちょっと疲れてる)
「シィ、ミスモ」(ええ、わたしもです)

ダニエルは、ハーフ地点までは集団に混じって走っていたみたいでしたが、足が痛み始めてしまい、集団から離れて自分のペースで走ることにしたようでした。
足元に目をやると、サンダルを引っ掛けている踵とゴムの部分とが接触して紅くなってしまっています。もう少しすると皮が剥けて、肉の部分が露出してしまいそうです。

「わたしのことは気にしないで、先に行って大丈夫だよ、グッドラック!」

ダニエルは大きなグッドマークを作って、サングラスをずらして垂れ目の目尻を更に下げて笑います。笑うと元の彫りの深さもあってかさらに眼窩が窪んでみえました。
たしかに自分のペースをひたすらに刻むほうが楽だし、早くゴール地点に到着ができます。ダニエルもそれを考えて、先に行けと言ってくれているのも容易に想像がつきました。
それでも、ここから先の道程は、ひとりで進むより、ふたりで進んだほうがずっと良い。今までの経験と感覚がわたしに耳打ちをしてきます。

「ペロ、バモス!ポルケ、エストイムイカンサダ」(でも一緒に行こう!だってわたしめっちゃ疲れちゃった)
「ペロ…」(でも…)
「ノン!メグスタ、コレル、マラソン、コン、ペルソナ!」(ううん!わたし人とマラソン走るの好きだし!)

ダニエルの反対を押し切り、そこからわたしたちは一緒にゴール地点を目指すことになりました。約17kmの長い旅です。
最初は、走っては歩く、走っては歩くを繰り返していたのですが、途中からダニエルの足がひどく痛むようになり、歩いて先を目指すことにしました。

長い旅路の途中で、わたしたちはいろんな話をしました。

どうしてマラソンを走り始めたのか、100マイルのレースはどんなものなのか、それを完走した時の喜びがどれほどなのか。
日本はどのような気候なのか、生魚をよく食べるのか、桜は本当に薄紅色の花をつけるのか。
アルゼンチンは人より牛の方が多いのか、自慢の食べ物は何か、アルゼンチンペソの大暴落は大丈夫なのか、デモの途中でもBBQは必須なのか。

途中にあるエイドステーションではボーイスカウトの子供たちが補給食やらドリンクを手渡してくれます。
彼らにとっても日本人は珍しいようで、全員で記念写真を撮ることになりました。

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