21歳、モロッコ(鈴木ゆうりさん #2)

この記事が公開される日に、わたしはひとつ歳を重ねます。さようなら27歳、こんにちは28歳。そのスタートの日に”愛”について語る、美しい始まり方ですね。ここからの365日は良いことがありそうです。

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さて、今日はふたつめのエピソードを。

何もかもが面倒くさくなって、とにかく遠くに行きたくて、衝動的に予約してしまった航空券。いつの間にかひどい絡まり方をしてしまったネックレスのような人間関係を前にして、愛想笑いも浮かべられなくなっていました。それでも東京で過ごす以上、わたしはわたしを演じることを強制されます。明るく、笑顔で、愛嬌のあるゆうりちゃん。それがどうにも苦しくて、わたしの存在が知られていない場所で、周りの目を気にしなくてもいい場所で、ゆっくりと深く呼吸をしたかったんです。

購入した航空券の行き先はモロッコのカサブランカ、アフリカ大陸北部に位置する都市に、乱雑な荷造りによって作成されたナップザックを片手に出発したのは2017年2月1日。航空券を予約した3日後のことでした。できるだけ遠く、そして安価な航空券を探しているところに、流星のごとく現れた航空券でした。往復で6万円弱、台湾に行くよりもお手頃な価格です。

初めてのアフリカ大陸なのに下調べが何もないままに到着するのは心許ないと至り、乗り換え地のアブダビ空港のWi-Fiでモロッコについてネットサーフィンをすることにしました。わたしが到着するカサブランカはモロッコの首都らしい、けれでも観光地で有名なのはマラケシュ、フェズ、そして青い都市のシャウエン、サハラ砂漠に通じるメルズーガと呼ばれる都市なようで、観光客の目当ては大抵がそこであることをウェブサイトから学びます。カサブランカの空港に併設する鉄道駅で切符を購入できるようなので、行き先はそのタイミングで購入できる切符で決めることにしました。

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カサブランカの空港は簡素だけれども特に不便もなく、スムーズに手続きを終えて到着ロビーの床を足で踏んだのは朝8時過ぎ。
地下が鉄道駅になっていると言う警備員のおじさんの指差すエスカレーターで吸い込まれるように下に降りると、切符を販売する小さな窓口がありました。

「今からフェズか、マラケシュに行きたいのだけど、どっちの電車のがすぐに出発できる?」
「それならフェズだね、一等車両か二等車両どっちにする?」
「二等車両で大丈夫」

欠伸を噛み殺しながら青年が発行した切符を受け取り、教えてもらった番号のホームで電車を待ちます。
ナップザック一つを抱きしめて空港の先へ延びる線路をぼんやり眺めながら、理解できないフランス語のアナウンスに身を委ねました。本当に遠くにやってこれた。誰もわたしの言葉はわからないし、何があったのかも知らない。携帯会社からの海外データ通信サービスご利用についてのお知らせをスワイプして、ようやく深く息を吸うことができたような気がしました。

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