母にはそれが、愛だった(三好優実さん #4)

「前の父親は喧嘩できん人だったん?」

急に聞いてみたくなり、あまり触れてこなかった実父について尋ねてみた。母は答えた。「喧嘩というか、まぁ普段はやさしかったけど、夜にこんこんと説教する人だったなぁ。あれはしんどかったなぁ」。

私はずっと、なんで2度目の結婚であんなに強烈な男を選んだのだろうと思っていたけれど、母は母なりに、自分の幸せとか譲れないポイントを追求した結果があの人(継父)だったのかもしれない。

子どもを産んだことですっかり愛を知った気になっていた私は、またしても愛が分からなくなった。ていうか、この親たち、私の気もちを振り回しておいてラブラブだったんかい。なんかむかつく。

むかつきながらも、私の中でなにかが浄化していくような感覚が芽生えていた。

*

昔スナックでアルバイトをしていたとき、「愛が生まれた日」というデュエット曲を何度も歌った。

愛が生まれるわけがないおじさんと肩を組んで歌った歌詞には「愛が生まれた日 この瞬間に 永遠が始まるよ」というフレーズがある。

そんなふうに「愛は生まれるもの」だと思っていた。現存する人間同士との間に、瞬間的に芽生えるのだと。だけど結局、歌のような瞬間は私に訪れることはなかった。かわりに「愛」と呼べるものを産んだ。愛は、私の腹で育ち、産まれた。

愛を産んだことで、私は一生懸命愛を育てることができた。これまで現存する人間への愛はことごとく失敗したのに、自分が産んだ息子のことはまるで熟練の愛使いのように愛を注ぐことができて「私できるんじゃん」と思った。「得意な方では」とすら思った。私は愛情深い人間かもしれないと、どこか誇らしい気もちが芽生えていた。

1 2 3 4