母にはそれが、愛だった(三好優実さん #4)

ひとつ、母が来て驚いたことがある。継父から母に向けてしょっちゅう連絡がくることだ。「飯がない」「猫をいじめます」「いつ帰ってくるん」など。

え、超かまちょじゃん。なんか仲良しやん。え?仲良しなん?あんなに顔を見るたび喧嘩してたのに?今でも絶対顔を見るたび喧嘩してるはずなのに?

そんな仲良かったんや、ふたり。と母に言うと「しらん。うざい」と返ってきた。無表情だ。眉間にしわが寄っている。本当にうざそうだ。

次の日、母は突然、日曜までいる予定だったのに土曜に帰ると言い出した。なんでだと聞くと「だって思ったより元気そうやのに」と言う。すでに飛行機は変更されていた。

「ねぇ、もしかして、おかんとおっさんって、実はラブラブなん?」

おそるおそる、疑問をぶつけた。私のなかで、ちょっと受け入れがたい仮説ではあった。

母は即答した。「ありえん。気持ち悪い」。真剣に気持ち悪そうな顔をしていた。

私は夫婦というものが分からなくなった。今思い出しても、そのときの母の顔は照れている様子ではなく、あきらかに本心だった。心の底から気持ち悪い人を思い浮かべている顔だった。なのになぜ、産後間もない娘とかわいい孫との時間を早々に切り上げるのだ。信じられない。

ふいに、母から聞かれた。
「あんたの旦那さんはめちゃくちゃいい人やけど、あんなにいい人と一緒におって、気を遣わんの?」。私はわけが分からなかった。というかちょっとむかついた。いい人だからいいんじゃないか。他人と家族になるのだから、少々気を遣うくらいがちょうどいいじゃないか。

ふと、なんでそんなことを聞くんだろうと思いなおし「おかんは、喧嘩ができるからおっさんのことが好きなん?」と聞いてみた。すると「好きではないけど。まぁ、言いたいことをバッと言える方が私は楽や」と返ってきた。

私は脳みそがひっくり返るような気もちになった。

え、え、えーーーーー?
あの地獄みたいな日々は、母にとってはもしかして心地よいことだったの?え?そしたら、もしかして、おかんにとって怒鳴り合う日々は、自然体でいられる的なやつだったの?本音が言い合える的な?母はずっと不幸だと、我慢していると思ってたけど、母なりに実現したい家族を叶えていたの……か?

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