私が中学2年生のとき、母が新しい父親を連れてきた。
どうやら母は、目の前にいるクマみたいに大きなおじさんと付き合っているらしい。そして再婚するつもりらしい。
まっさきに浮かんだ言葉は「オカン、良かったね」だった。母は長らく女手ひとつで私と弟を育ててくれていた。早朝の新聞配達からはじまり、トラックの運転手やスナックなど、朝から晩まで働いていた母は、私の知る限り3回は倒れている。体力も精神も、すべてお金を稼ぐために使っているのだと思っていた。
だから再婚の話を聞いたときは、「なーんだ、オカンもちゃんと恋愛してたんじゃん!身も心も仕事に売り払ってるわけじゃなかった!良かった!再婚?どうぞどうぞ!」なんて、子どもながらに思った。
当時の私は、周囲よりひとあし遅く初恋デビューしたばかり。恋やら愛やらは私にとって楽しくてうきうきするもので、日々をカラフルにしてくれるものだった。そんな温かい感情を母ももっているのだと思うとうれしかった。
だけど再婚してすぐ、母は新しい父親とたくさん喧嘩をするようになった。理由は分からなかったけれど、きっと自分たちのことだったのだろう。怒鳴り声は小さな家の隅々まで響き渡り、灰皿が割れる音を聞く夜もあった。母が頭から血を流している姿を見た日は、「最悪のことが起こったときは、私がこのおじさんを殺さなくてはいけない」などと物騒なことを考えたりもした。
高校生になり、はじめての彼氏ができた。