強くありたいだけなのに<彼女の言葉②>(Yoshiyuki Hadaさん #2)

そんなとき、当時付き合っていた彼女から今でも忘れることができない言葉を言われた。

あれは、彼女自身のことだったのか、彼女の友人の話だったか、記憶は定かではないけど、英語を話せるようになるにはどうしたらいいか?という話だったと思う。

僕は、英語とか語学って、やるか、やらないかの違いだよね、それなら、目標を決めてやればいいじゃん、と言った。オランダとバングラデシュでの実体験から、経験者が語る率直なアドバイス、というつもりだった。

彼女は納得しなかった。こっちが真剣にアドバイスをすればするほど、ますます顔を曇らせた。不満そうな顔のまま視線をそらす。

僕はさらに、それでもやらないのは、必要に迫られてないからってことじゃないの?と続けた。ただ、英語に自信がないことをけなすつもりは全くなかった。だって、自分自身、元々英語は話せなかったし、オランダで教授や学生の話が聞き取れず、自分の言いたいこともうまく伝えられず、悔しい思いをしていたから。

目の前にいる私を助けて、という言葉の傷が胸に残るなかで、僕は彼女のためになるように、親身に、だけどきっぱりと助言をした。

そのとき、彼女は冷たく言った。

「あなたにはわからない人の気持ちがわからないのよ。みんながあなたのように強いと思わないで」

どうやら、きっぱりと突き放したのは、僕ではなく、彼女の方だった。

僕が、これまでの経験から学んできた、頑張ればなんとかなる、やればできる、という心掛けは、人生に度々登場する障害や困難を切り抜ける上で、欠かせないものだと思っていた。この彼女の言葉にはっとさせられるまでは。

それでも、僕は、できない人の気持ちはわかっていたつもりだ。特に、英語に関しては、海外経験がない状態からある程度話すことができるようになった。勉強も、そうだ。あとは、バンド活動も。

僕は、中学と高校時代はバンドを組んでいて、音楽の才能があると思ったことは一度もなかったけれど、それでも必死に練習してきた。中高生のときのバンドのパートを決める時はだいたい、仲間の中でどれがいいか?って話になって、目立つカッコいいポジションから決まっていくものだけど、僕が選ぶときに最後に残っていたのは、キーボードだけだった。ピアノも触ったことがなかったけれど、キーボードやる?って聞かれて、その場でノリで、「お、おう」と応えた。それから、妹が通っていた個人のピアノの先生のところに中学1年生の途中から通い始めて、初歩の初歩、バイエルから練習した。最初は指が全然動かなくて、みるみる上達するほどの才能もなかったけれど、練習時間で補った。高校受験と大学受験もあったけど、休むことなく続けた。英語もピアノも初めは全然できなかった。だから、できない人の気持ちはわかっているはずだった。

ただ、彼女は、あなたは頑張れない人の気持ちがわからないのよ、と言う。目標があるならそれに向かって頑張ればいい、というのができない人もいる。あなたみたいに強い人だけじゃない、と言う。僕は、彼女の言うことがわかっていなかったと思う。彼女の言葉の意味を本当に理解するのは、もう少しあとになってからだった。

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