強くありたいだけなのに<彼女の言葉②>(Yoshiyuki Hadaさん #2)

オランダ人はみな英語を上手に話す。英語だけじゃない。オランダはドイツとフランスという大国に囲まれているためか、オランダ人はドイツ語やフランス語が話せる学生も多い。それにひきかえ、僕は英語も満足に話せなかった。「あなた、日本語以外は英語しか話せなくて、その英語もあまりうまくないのね」と言われたこともある(オランダ流のコミュニケーションは、いつも直球、ストレートだ)。

オランダ留学中の1年間、僕は、手のひらサイズの手帳に短い日記をつけていた。アムステルダムのアパートに住み始めてすぐの頃、英語があまりにも話せなくて、あまりにも聞き取れなくて、家に帰る道を歩きながら悔しくて、その日の手帳には、自分への怒りをぶつけた。その日の数少ない話し相手は、英語非ネイティブの留学生に慣れているはずの大学のスタッフだったのに。その後も何度か悔しい思いをして、落ち込んで、手帳に書き込んでいた日記。最初の数週間は日本語で書いていたけど、ある時から、思い切って、英語でつけるようにした。

初めての海外生活は新鮮で刺激的で、週末近くになると、友達と夜の街に繰り出した。まだ若かったから体力だけはあった。アムステルダムのバーではビールをよく飲んだ。日本でオランダのビールといえばハイネケンを思い浮かべがちだけど、そんな有名銘柄ではない現地のビール。場が盛り上がってくると、明らかにアルコール度数の高そうなお酒をショットで飲んだ。

それでも、海外でお酒を飲むと、日本と違って酔いつぶれたりしないから不思議だ。日本で大学生をやっていた時は、サークルでもゼミでも、すぐに酔っ払って、おえって吐くか、眠くなってしまうかのどちらかで、周りに介抱されることが多かった。それが、アムステルダムの床がベタベタするバーや、古いレンガの建物を改修したクラブでしこたま飲んでも、酔いつぶれて友達のお世話になることはなかった。

無意識に警戒心が働いていたのかもしれない。ここで意識がおぼつかなくなったらヤバいぞ、と。アップテンポの音楽がガンガン鳴っている場所で英語の会話についていくのは大変で、酒に酔っている場合ではなかったのかもしれない。いずれにせよ、僕は、留学生仲間のハイペースなビールのおかわりに合わせつつ、酔いを冷ます冷静な意識を持ち続けることができた。

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