惣菜グラフィティー(ふつうエッセイ #700)

時々、夕飯の準備が面倒になることがある。

豚肉を買えば、油を引いて塩を振るだけで「メシ」にはなる。だが僕は一人暮らしをしているわけではない。妻はさておき(さておき?)、ふたりの息子にはちゃんと栄養のあるものを与えてあげたい。

そう考えたとき、豚肉+塩の簡単レシピでなく、スーパーのメンチカツとヒレカツという選択に至った。なんと20%引きのシールも貼ってあり、意気揚々とレジに並んでいると、「良いわねえ、お酒のツマミかしら?」と話しかけられた。陽気なおばちゃん店員である。「はい……えへへ」とお茶を濁したが、支払いが済むまでひたすら話し掛けてくる。

ことわっておくが、僕は話し掛けられることが苦手ではない。むしろ大歓迎で、軽い世間話なら僕からすることもあるくらいだ。

だけどこの日は、「はい……えへへ」とごまかしている。単に、機嫌の問題だったんだろうか。それとも惣菜で夕飯を済まそうという罪悪感ゆえだったのだろうか。

別に、惣菜だって良い。

案の定、息子たちはソースをかけてパクパクと平らげていた。それで良い、それで良いよ。

確かに腕をふるった料理の方が良いのは間違いない。でも、料理に充てなかった時間で、各々は好きなことができている。

そうやって世界は回っている。分業社会が、資本主義のベースなのだ。