死んだあいつと、生きてる俺と(BUBBLE-Bさん #4)

このゲーセンで、度々目撃した人物がいる。

2階にあるビデオゲームのフロアに上がると、すぐ脇に「アルカノイド」の台が設置してあった。タイトー社の名作ブロック崩しゲームだ。
その台には、ドラえもんの旧声優である大山のぶ代さんが毎日のように座っていたのだ。

ドラえもんのイヤリングを両耳に付けたのぶ代さんは、淡々と、そして延々とアルカノイドの面をクリアしていった。
コントローラーの横にはいつも、1本だけ箱から飛び出たラークのマイルド、9mg。

のぶ代さんは華麗なツマミ捌きで、めったに死なない。そしてアイテムも逃さない。
レーザーのアイテムをゲットしたらボタンを連打し、効率的にブロックを消していく。

その鮮やかさは初老の方のプレイとは思えない。ましてや、国民的アニメの声優だなんて。

「今日もいるよ」

その不思議な空間に何とも言えない気持ちになりつつ、自分達のやりたいゲームに興じた。

自分達のゲームが終わった頃、のぶ代さんはいなくなっていた。

お互い、しょっぱい会社員生活の終業後に楽しむこの時間は、無為ながらも貴重なものだったのだ。

やがて私は別の会社へと転職し、西新宿に通うこともなくなった。
あいつも程なくして会社を辞め、無職となった。

「なんか仕事ないかなぁ」

今でもあいつの声のまま、脳内再生が余裕だ。

私が新しく入った会社では、社員を募集していた。
サーバなどのITインフラに明るい人という募集要項だったので、あいつを推薦してみたところ、あっさりと採用された。
一緒にDJパーティを開催したり、西新宿のゲーセンで遊んでいたあいつと、なぜか「同僚」になった。

友達が同僚になるという経験は初めてで、何だかむず痒い。
仕事をしている所を見られたくないような、変な気持ちになった。
そもそも、社内で何て呼んだらいいのか分からない。

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