仕事をナメていた私が、仕事を愛せるようになるまで(BUBBLE-Bさん #1)

「大手やん!凄いやん!」

理系大学出身の私は、就職氷河期を感じることなく、都内の大手企業への就職をサラリと決めた。

その会社に入ったのは、「大手だったら安定してるだろう」という漠然とした理由しかない。

仕事より音楽がしたい、それが上京の本当の目的だった。

退屈な研修が終わり、配属先は親会社のとある事業部。個別にパーテーションが区切られた豪華なオフィスでOJTが始まり、担当の上司と二人になった。

上司のモニターを覗いたら、そこにはトランプの柄が映っていた。
上司はトランプをめくっては、同じマークの上に延々と積むゲームに勤しんでいた。

なんだ、これでいいのか。

全体的にダラダラとした社風の会社で、何を目的に仕事をしているのかも分からず、「やれ」と言われたことを淡々とやるだけ。楽勝だと思った。

ある日、親睦ボーリング大会というものが催されることになった。
上司は私にこう言った。

「ボーリング大会、出世のために行った方がいいよ。僕は技術力があるから行かないけどね」

この人は何を言ってるんだ。
技術力があれば親睦しなくてもいい。上司との煩わしい酒席に顔を出さなくていい。なんだ、それでいいのか、その程度か。

音楽活動は順調そのものだった。CDを出せば売れ、地方にも呼ばれ、イベントの動員もあった。刺激にあふれた毎週末だった。
その反面、月曜日からの会社員生活は退屈そのもので、さらに「周囲全員がつまらない人に見えてしまう病」にかかっていた。

楽しすぎる音楽活動と、退屈すぎる会社員生活。双方のギャップに苛まれていたら、体育会系の別の上司に呼び出された。

「お前、音楽やるのか、仕事をするのか、どちらかにしろ。今のままだと、どっちつかずになるぞ」

ごもっともである。勤務意欲の低下が、私の顔や態度にモロに出ていたのだろう。

「じゃあ、音楽で」と言いかけたが言わず、「ですよねぇ」とお茶を濁して、なんとなくやり過ごした。

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