“大好き”なのに“離れたい”(碧月はるさん #3)

2021年、西加奈子が5年ぶりに長編小説を刊行した。その作中において、もっともシンプルでもっとも力強い一文を、ここで引用したい。

苦しかったら、助けを求めろ。

(西加奈子『夜が明ける』P380より引用)

どんなに大事でも、どんなに愛していても、がんばれる範囲には限度がある。子育ては「削られる」ことばかりではないけれど、30秒のCMのように、あふれる笑顔と幸福なシーンだけで成り立つような甘いものでもない。苦しかったら、助けを求めていい。その手をしっかり掴んでくれる人に出会えるまで、何度でも助けを求めていい。そして、何より強く言いたいのは、「助けて」と声を上げた人の口を塞がないでほしいということだ。

幸いにも、息子たちは心身ともに健やかに育っている。私の理性の手綱も、最悪の形で千切れることはなかった。でもそれはただの結果論で、「だったら良かったじゃない」という単純な話ではない。何かがほんの少しでも違っていたら。そう感じた瞬間は、正直数えきれない。そんな危うい綱渡りがデフォルトの社会ではなく、子育て中の母親(父親)がためらいなく休息できる世の中がいい。親にとっても子どもにとっても、そのほうがきっとやさしい。

「離れたい」と願った朝、「休みたい」と塞いだ昼、「眠りたい」と泣いた夜。そのすべてが、全力で子どもに向き合ってきた軌跡であり、親だからこその葛藤だった。「大好き」だからこそ、間違えたくなかった。そのために、「離れたかった」。

ただそれだけだったのだと、愛情と葛藤は矛盾するものではないのだと、当時の自分に伝えたい。ついでに、元夫に小一時間説教してやりたい。

守りたいものを守るために、まずは自分の心身を守る。基本的な大原則を、「親だから」という理由で、私たちは忘れがちだ。忘れたくない。忘れてはならない。自分のためにも、息子たちのためにも。私は、私の心と体を守る。その上で、できる限りの力で息子たちを愛する。そのスタンスを貫きながら、私は正々堂々と「母親」を名乗っていく。

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