紅生姜が足りない(ふつうエッセイ #310)

牛丼チェーンでは、松屋が好きだ。

「肉+紅生姜+ご飯」のバランスがとれた牛丼が好きで、僕にとっては松屋が一番口に合うような気がしている。

しかし、そんな松屋に変化があった。

最近、紅生姜が持ち帰り用のものと併用されるようになったのだ。持ち帰り用の紅生姜は、小分けにパッケージされており、袋に詰められている紅生姜はかなり少ない。(それが標準なのだろうが)

僕はどちらかといえば、紅生姜をたっぷり牛丼にかけるのが好きだ。これまで通りの食べ方をすると、いくつも袋を開封しなければならない。さすがにマナー違反かなと思い、少量の紅生姜で我慢している。

運用が変わったことに落胆していたのだが、代々木駅前の松屋に入ったとき「(こういった運用変更は)原材料不足が原因です」と書かれた張り紙を目にした。松屋フーズのウェブサイトなど、特にそういった公式アナウンスはないので真偽は不明。だが「まあ色々事情があるよな」と、妙に納得してしまった。

欧州の情勢不安や円安の影響によって、原材料の調達コストは上昇傾向にある。企業努力によって価格帯を維持し続けてきた日本の外食産業も、ちょこちょこ値上げの情報を目にするようになった。それ自体は、もう仕方ないことだと僕は思っている。

そもそも企業努力とは、何だろう。

松屋の牛丼(並盛り)は、現時点で380円を維持している。エンドユーザーである僕たちは、紅生姜の運用変更以外では、調達コスト上昇の影響を受けない。

企業努力の内容が不明だが、従業員の賞与減額だったり、取引先への調達コスト減額提示だったり、誰かがマイナスの影響を受けている可能性が高いだろう。誰かが「ジョーカー」を引いているというわけだ。

松屋とロイヤルホストの客層は違う。松屋なら、日々わずかなお小遣いでやりくりしている高校生だってお腹を満たすことが可能だ。だから一概に「エンドユーザーに負担してもらうべきだ」とは言えない。

だけど理性のあるエンドユーザーであれば、調達コスト上昇がどこに転嫁されているのかには自覚的であった方が良い。それは長期的にみたら、日本の食文化を守ることにもつながるからだ。

紅生姜が足りない。

だけど、想像力まで足りなくなってはいけない。神経をすり減らしがちな現代だからこそ、周囲には温かい眼差しを向けようではないか。