車窓から(ふつうエッセイ #587)

月に1回、東京から長野県富士見町に足を運ぶ。

年間を通じて開催されているワークショップに参加するためで、2022年
4月から通い始め、いよいよクライマックスに差し掛かっている。

受講生のひとりで、僕と同じく東京から通っている方が「富士見町を訪ねると『エモい』気持ちになるんです」と語っていた。

正直な話、僕は「エモい」気持ちになったことはない。なので微妙な苦笑いを浮かべながら同意するフリをしていたのだが(たぶん嘘はバレていただろう)、そういえば僕はどんな感情を抱いていただろうか。うまく思い出せない。

聞けば、彼女は東京から電車やバスで移動し、車窓から見えてくる景色に「エモい」要素を感じるのだという。景色の移り変わり。確かに自然からパワーをもらえる、ではないけれど、澄んだ空気や風を肌に感じると「ああ、遠くまでやって来たな」という気分になれる。

彼女の言葉を信じ、ローカル線に揺られながら帰路につく。実に3時間半も電車に揺られるのは久しぶりの体験だった。残念ながら、ダウンロードしていた映画に夢中で、車窓から景色を眺める余裕はなかったけれど(しかも雨だった)、「エモい」の一端は視界に掠めることができたように思う。

ちなみに観ていた映画は「ドライブ・マイ・カー」。久しぶりに見返したけれど、やっぱり素晴らしい作品だったな。