「障がい」をなくす。ひとりひとりに寄り添った先に見据える社会のあるべき姿とは?(JINO株式会社 代表取締役 郷司智子さん・後編)

「障がい」を、なくす

創業後、2020年2月に店舗を開業するも、直後にコロナ禍に直面する。外出自粛のムードが漂ったことで、店舗経営はいきなり試練に見舞われた。それでも「起業して良かった」と郷司さんは話す。

郷司「幼少期に感じていた違和感が、大人になるにつれ、家族が笑われているような悔しい気持ちに変わっていきました。私たち家族にとっての日常が、周りの人たちから奇異な目で見られることがある。歴史や制度などを調べていく中で、その原因は「社会」の側にあると気付きました。
事業を進める中で、お医者さんにも『これって、おかしくないですか?』って直撃したり。門前払いされることもありますが、親切にアドバイスしてくださる人もいます。少しずつですが、一緒に取り組める仲間が増えてきたように感じています」

社会を変えたい。口で言うのは簡単だが、実行するのは大変だ。
だからこそ、いまの事業を成功させたいと郷司さんはいう。

郷司「私が特に変えたいのは、子どもの環境です。聴覚障がい児が置かれている日本の環境は、諸外国に比べてもかなり良くないんです。
確かに、現時点で私たちができることは限られています。私たちの意見を聞いてもらうためには、業界に対する影響力を持たないといけない。その必要性を痛感しています。だから、まずはこの店の経営を軌道に乗せたい。それで初めて、『JINOがやっていることは正しい』と周りに認めてもらえるようになると思うので」

郷司さんが目指すのは、「障がい」という概念をなくすことだという。

郷司「例えば、老眼のことを『障がい』とは言わないですよね。背が高い人、低い人も『障がい』とは見なされません。それらは、彼らにとっての『特性』です。
聴覚障がいも同じだと思っているんです。難聴のない人と比べて聞こえづらかったとしても、ひとつの特性として受け入れられていく社会になれば良いし、そういう社会を作っていきたいんです」

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