「障がい」をなくす。ひとりひとりに寄り添った先に見据える社会のあるべき姿とは?(JINO株式会社 代表取締役 郷司智子さん・後編)

耳は繊細な感覚器なのに、聴覚に関する情報が広く知られていない──

危機感を募らせるのは、郷司 智子さん(以下、郷司さん)。「聞こえの課題をゼロにする」という理念を携え、2019年にJINO株式会社を創業した。日本には「聞こえ」の課題が山積しているにも関わらず、適切な対処がなされていないという。

前編では、聞こえの課題とはそもそも何か、郷司さんの原体験を交えながら話していただいた。後編では、郷司さんが起業に至った経緯を皮切りに、郷司さんが目指す「聞こえの課題をゼロにする」道筋について伺った。

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仲間がいたから、起業を決断できた

聞こえの課題について試行錯誤を繰り返し、2019年にJINO株式会社を創業した郷司さん。しかし補聴器メーカーに在籍していた当時、独立する考えは一切なかったという。

郷司 智子さん(以下、郷司)「補聴器の性能は格段に高まりましたが、どうしても補聴器メーカーだけでは限界がありました。補聴器は、販売店を経由してお客さまに届けられるからです。だから、家族を安心して任せられるようなお店を増やす必要があります。
でも、メーカーの立場では、その課題になかなかリーチできず悩んでいたんです。『どうにかしなくちゃ』という思いを、知り合いの経営者に相談したことがありました。すると『起業して、解決する事業を自分で作るべきだ』と言われてしまい。うーんと言葉に詰まってしまいました」

自分は経営者に向いていない。だから『無理だ』と即答した郷司さん。それでも起業に至ったのは、なぜなのか。

郷司「共同創業者の平野 幸生さんの存在が大きかったですね。平野さんとは前職で、ちょうど机が前後ろで並んでいました。私たちは始業前、朝6時半〜7時頃に出社して、いつも『ああでもない、こうでもない』と議論していました。
あるとき、色々張り詰めていたものがピンと切れてしまいまして。『もう、会社やろうよ!』という話になり、その勢いのまま、起業することになったんです」

決断は唐突に思えたが、不思議とやるべきことは明確だった。

郷司「いま振り返ると、知り合いの経営者の存在がとても大きかったです。相談させてもらったこともそうですが、彼自身が事業に向き合う姿を見て、勝手に触発されていったのだと思います。知らず知らず、事業への視座が高まっていました」

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