「障がい」をなくす。ひとりひとりに寄り添った先に見据える社会のあるべき姿とは?(JINO株式会社 代表取締役 郷司智子さん・後編)

24時間365日、仕事のことを考えている

そもそも聞こえないことは、必ずしも悪いことではない。そう語る郷司さんが目指す課題解決は、ひとりひとりに寄り添った先にある。

郷司「聞こえなくても、その人が幸せに過ごしているのであれば、そのままで良いと私は考えています。でも、聞こえないことで、苦しさや辛さを感じる人たちもいます。
以前、耳鳴りの患者さんの治療に立ち会ったことがありました。人によっては、私の想像以上に、その状況がヘビーなものになるのだと実感しました。大人でも『辛いです』と、私たち技術者の前で涙を流されます。彼らに対して『改善する方法はありますよ』と伝えていきたいと思います」

休日も、郷司さんは聴覚に関するリサーチを欠かさない。
「なぜ、そんなに頑張れるんですか?」。経営者に対する愚問を承知で、郷司さんに尋ねてみた。

郷司「すごく変わるんですよ、お客さまの顔が。最初はずっと下を向いて歩いていた人が、1〜2ヶ月と店に通うにつれて、目に生きる力が戻ってくるというか……。『聞こえない』が『聞こえる』に変わった瞬間、瞳孔がパッ!とひらきます。別人のように、表情が明るくなるんです。
『いままでに感じなかった色々な音が見つかった!』と教えていただくこともあります。仕事を通じて、お客さまの発見を一緒に経験できることもとても幸せです。そういった意味で、私たちの仕事は、やりがいがクリアです。だから時間さえあれば、『あのお客さまは、どうすれば良くなるだろうか』と考えちゃうんだと思います。環境面も含めて、今後10〜20年の間にどうなっていくか、私たちは何をすべきかというのを、ずっと考えていますね」

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