人に必要とされたい(Geumさん #1)

高校入学した。
日本名にしてみた。
わたしを見に来る人はいない。

春の体育祭実行委員に立候補した。
人前で話せない。
恥ずかしい。
誰かが代わりに話してくれるはず。

高校生活に入って、名前も変わったから、何かが変わると思っていた。
けど、日常は変わらない。
わたしがグダグダしている間に、クラスが崩壊した。
最悪だ。
—変わらない 高校1年生 2005年

*

最悪な学校生活がこれからも待っているのかー。
つら。

いつかわたしが母親になったとき、聞かれるのかな。
「お母さんは、どんな学校生活を送ったの?」
“クソだったよ”

だれかが助けてくれると思ってた。
きっと誰かがクラスを盛り上げてくれると思っていた。

そんな現実はありえないんだ。
このままは嫌だ。
—高1が終わる 高校1年生 2006年

*

高校2年生になった。
クラスも変わった。

わたしは同じように体育祭の実行委員に立候補する。
体育祭ではクラス対抗の大縄跳びがある。
「朝練しよー」
大きな声で、クラスメイトがいるところで声をかけはじめた。

男子も女子も練習に参加してくれた。
みんな、楽しかったと言える学校生活を送りたかったのは一緒だったんだ。
たのしい。
—体育祭 高校2年生 2006年

*

文化祭もかけぬける。
みんなが最高にのめり込める環境をつくりたい。
誰にでも好かれる良いやつになった。

わたしが頑張ることで、みなの笑顔も生まれていく。
ありがとう、と言われる言葉。
みんながいたからだよ、とわたしは言う。

クラスはどんどん良くなっていく。
今が最高と言える人生が積み重ねられる。
—クラス 高校2年生 2006年

*

部活でサキに出会った。

彼女は、周りを気にしない。
自分を大切にする。
嫌なことは嫌と言う。
「はっ?」とキレるときはキレる。
自分の好きなものを好きと言う。

多くを語ることはしない。
存在が彼女を物語る。

彼女は、藝大を目指している。
彼女は、かっこいい。
—かっこいい 高校3年生 2007年

*

受験票を持って、初めての大学受験。
霞んで暗い雰囲気の教室。
緊張が張り詰める。

髪で自分の顔を覆い尽くす。
私はキモチワルイんじゃないか。
誰にも自分を見られたくない。
—受験 高校3年生 2008年

*

泣いている声が聞こえる。
「わたしなんかに希望なんか無いじゃないか」

ネット上には「チョン死ね」という言葉に溢れてる。
今のわたしは、その言葉は気にならない。
けど昔のわたしだったら、どうだろうか。

高校生活、最高だったな。
わたしは高校時代を通じて、わたしのありたい姿に近づいた。
人に必要とされている。
わたしが一歩踏み出したことによって、みなの笑顔がみれる。
幸せだった。

けど、みんながみんなそう変われるものでもない。
わたしは運良くそう思えた。
わたしみたいに歩み始める人もいるけど、そうではない人もきっといる。

それに国籍、名前、見た目、人との行動の違いなど、
分かりやすさを切り取って、
ステレオタイプに決めつけて、人を傷つけることがある。
わたしだってそうだ。
それで苦しむ人がいることもしっている。

高校時代の友人たちは、わたしが在日であることを知ったとして、どう思うだろうか。
mixiで私は本名をカミングアウトする。
コメントに溢れてくる言葉。
「ユナはユナのままだよ」
「変わらないよ」
その言葉が嬉しかった。

伝えるからこそ、人は知ることができる。
想像力を働かせることが出来る。

“希望を持てる世の中にしたい”
そのためにも、”伝える”を仕事にしたい。

目の前にある大学受験を頑張ろう。
—これから 浪人 2008年

*

大学から本名に戻した。
想いをもって、わたしは活動している。
多くの人と出会い、世界が広がった。
“伝える”にも、いろんな方法があることを知った。
レールから外れたっていいんだ。
生きてて楽になった。

充実してる。

飲み会の帰り道、夜道にふと物寂しくなって友人に電話をする。
酒に酔った、わたしはさけんでる。

“あいされたい”
—あいされたい 大学3年生 2011年

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