歩く力(ふつうエッセイ #702)

コロナ禍……は関係ないのだけど、ここ数年、歩く力が急速に弱まったように感じる。

数年前までは、歩くことが楽しかった。

ひと駅分など余裕で歩いていた。身体的な余裕だけじゃなくて、それが「楽しみ」で歩いていたのだ。見知らぬ街を歩いていると、変な人や店に出会うことがある。「変」というのは変人や奇人ということでなく、ユニークという意味で。ああ、この街にはなぜ工具店が多いんだろう?とか、そういう発見や考察につながるヒントなんかもあって、楽しいのだ。

今は、なるべく早く目的地に着きたいと思いが先行する。「電車使っちゃえ」という気分にもなりやすい。もちろん酷暑ということもあるが。

日常的には、自転車を使っている。自転車は風を感じて気持ちが良いし、思考の整理にはうってつけだけれど、発見には不向きだ。何かを見つけるには、スピードは要らない。洞察力とか、心の余裕とか、ゆったりとした時間軸の中にほどよくスペースが開かれていることが大事だと思う。

ということで、たまには知らない街を、知らない道を歩くようにしよう。汗かいたって良いじゃない。着替えれば良いじゃない。

今しか出会えない何かに、出会う確信を微かに感じている。