片付けたい。(ふつうエッセイ #274)

ホテルや旅館に泊まるときのルーティンがある。

使用したベッドや布団を、チェックアウト前に片付けること。

一説によると、チェックアウト後の清掃においては、そのままの状態の方がやりやすいらしい。忘れ物のチェックなどをするため、清掃担当者はいったん布団を「バラす」必要がある。布団が畳まれていると二度手間になってしまうので、宿泊客には「そのままにしてほしい」ようだ。

そのことを理解した上で、やはり僕は、朝起きたら布団を畳みたい。そうでないと気持ちが悪いのだ。地方の旅館に宿泊し、朝起きて窓をあける。清々しい空気に感じられる旅情こそ、旅の醍醐味だ。

そんなとき、だらしなく転がっている布団が目に付くと、何だかとても残念な気持ちになる。片付けたい、その感覚に従いたい。

「綺麗にしたい」というわけではない。僕は決して綺麗好きな性格ではなく、むしろ「がさつ」な方だ。

じゃあ何のために?

そう聞かれれば、「片付けたいんだよね」と返答するしかない。片付けるために、片付ける。それに尽きるのだ。

片付けたい。

試験前日に、無性に湧き上がる感覚と近い。試験勉強の場合は、だいぶ困ってしまう衝動だけれど、旅行の最中であれば、そこまで旅館に迷惑はかけるまい。

強制されて、布団を畳むのではない。

気持ち良く、旅がしたい。ただ、それだけなのだ。