ゴジラを捉える(ふつうエッセイ #618)

久しぶりに新宿のTOHOシネマズを訪ねた。

駅からやや遠く、苦手な歌舞伎町を通るため、よほど鑑賞したい作品がない限りはTOHOシネマズ新宿には立ち寄らない。(でも映画を鑑賞するには、とても良い設備を有していると思います)

用を済ませ、新宿駅に向かって歩いていると、外国人観光客がスマホを上方に構えている。「なんや、UFOで飛んでるのか?」と思って振り返ると、ゴジラが顔を出していた。そうだ、そうだ、ここにはゴジラがいるんだっけ。

コロナ前、僕は海外旅行が好きだった。『地球の歩き方』を片手に観光名所にも足を運び、パシャパシャと写真を撮ったものだった。訪日外国人にとって、「あの」観光名所がゴジラなんだなあと思うと、少し複雑な気分になる。あれは、観光のための「見せ物」なのかと。

テレビのドキュメンタリーで、とある建築家が「昔の方が良かったと人は言う。だけど10年経てば景色にも慣れ、当たり前のように今を受け入れるようになる」といったことを話していた。果たして、そうだろうか。

僕が心に残っている心象風景は、建築にせよ、プロダクトにせよ、ロゴにせよ、ちゃんとありありと生き続けている。「今の方が良かった」、うん確かに便利にはなかったかもしれないけれど、失ってしまった場所もたくさんある。あれだけ通っていた横浜に足が向かなくなったのは、東京在住になったからではないと思う。僕にとって、かつて「行くべき」場所だった横浜が、「行くべき」場所でなくなったということだろう。

新宿歌舞伎町。今も昔も苦手だったけれど、何度か美味い飯を食ったことはあって。あそこでギャハハと笑い合った記憶は、今もちゃんと残っている。そのとき、新宿歌舞伎町にはゴジラはいなかったけれど、十分「行くべき」価値はあったはずだったよな。