対面で伝える(ふつうエッセイ #596)

2021年まで僕は人事採用の仕事をメインに行なっていた。

以前勤めていた会社で注力していたのは、新卒採用。経営者は即戦力としての中途社員も適宜採用しながら、長期的には若い世代で事業運営しようという野望を抱いていた。

僕が人事を始めたのは2017年。世の中は、売り手市場、つまり求職者が企業を選べる時代になっていた。特にエンジニアとしてある程度のスキルを持っている人は、どの会社にも歓迎されていた。メガベンチャーを筆頭に「新卒で1,000万円の給与を支払っても良い」というような方針を掲げていたのは、象徴的ともいえる。

採用に限らず、マーケティング手法を応用する「仕組みづくり」は、多くの企業にとって最優先の課題である。僕の会社も、特定の人物に依存しないような「仕組みづくり」にこだわっていた。だが、僕の力不足もあり、優秀な人材を採用するという目的を優先させるために、4年間でかなりのマンパワーを使って採用活動に取り組んでいたのが現実だった。(だから、僕の退職後に、残されたメンバーはかなり大変だったんじゃないかと推察する)

無名のベンチャー企業にとって、採用は簡単ではない。

なんせ、大学生は選べる時代なのだ。

だから僕は、「この学生はうちにマッチする」と判断したら、ありとあらゆる手を使って口説くことにした。最終判断は役員に任せれば良いが、その段階に至るまで、しっかりと入社意欲をあげていく。2020年からはオンラインでの採用が主になったけれど、とにかく「伝える」頻度をめちゃくちゃ高めていった。

伝えるのは、エネルギーを要する。

それを自覚していた僕は、とにかく自分の時間の大半を費やしていた。伝えることの大変さはよく知っているし、キャリアの浅い若手社員が簡単に真似できないことも分かっていた。僕が辞めるとき、後を継ぐ社員にはそのことを伝えなくちゃいけなかったなと反省している。(が、言い訳すると、僕が退職するとき、後任担当者は決められていなかったのだ)

ただ伝えるだけなら、難しくはない。

熱量の高さ、そしてそれを継続して伝えることは、そう簡単には実践できない。

今日は別件で、伝えることに躍起になる仕事に取り組んでいた。なかなか大変だけど、そんな仕事を任せてくれたことを嬉しく思う。伝えるプロフェッショナルになれるかは分からないけれど、伝えるためのこだわりや情熱だけは、いつまでも失いたくない。