それは、意志的な誤解ではないか(早坂あゆみさん #1)

日本映画界の巨匠、大林宣彦監督が亡くなってから3年になる。思春期、その作品や思想に大きな影響を受けた。なかでも、記憶に刻まれたのが「恋とは好意的な誤解である」という言葉。誤解は悪いもの、と考えていた私は驚いたが、その通りだと気づいた。「あばたもえくぼ」。好きな人のことは、実際より良く見えるものである。

恋はいつか醒める。昔、ある著名人の夫が、離婚する際に放った言葉が話題になった。「人魚かと思って釣ったら、ホオジロザメだった」。ひどい言い方だなぁ。今なら炎上必至だろう。でも、不謹慎と思いながら、ちょっと笑ってしまった。恋が終わった後の人間の気持ちを、あまりにも端的に表していたから。どんなに好きになった相手でも、一緒にいるうちに嫌なところが見えきて、「好意的な誤解」が失せるのはよくあることだ。

これは恋だけではなく、あらゆる人間関係にいえるだろう。友だちや仕事仲間などでも、はじめは「良い人だな」と思える人がいる。それも大林監督の言葉を借りれば「無自覚の誤解」で、長く付き合う間に幻滅してしまうことがある。

とりわけ最近は、SNSで誰もが自由に意見や感じることを発信できる。良いと思っていた人の意外な一面に触れることが増えたのではないか。私自身、学生時代からの友人のブログを読んで、全く価値観の合わない部分を知り失望したことがある。心優しく、一番尊敬していた旧友が、フェイスブックで読むに堪えない暴言を吐いているのを見た時は、ショックで絶交さえ考えた。

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