1区の飛び出し(ふつうエッセイ #484)

「最初だけだろう」

そう高を括っていたのに、気付けば箱根駅伝1区で3位でゴールした。関東学生連合、育英大学の新田颯さんだ。

最初から最後まで見ていたわけじゃないけれど、冬晴れの日和に明るく映えた黄色のユニフォーム。4年生、最初で最後の箱根駅伝を、勝負した新田さんのチャレンジに多くの人が拍手喝采をおくったのではないだろうか。

これまでも、箱根駅伝1区を飛び出したランナーはたくさんいた。

今や日本を代表するマラソンランナーの大迫傑さんも、第90回箱根駅伝では飛び出しを試みている。しかしこれまで1区で1位もしくは2位の好記録の残していた大迫さんだったが、ハイペースの代償で後半失速、結果的に5位に沈んでいる。(もちろん5位だって素晴らしい成績だけど)

このように、最初に飛び出した選手は枚挙に遑がないけれど、成功を収めた人はほとんどいない。「頑張れ〜!」という声援は誰よりも浴びるけれど、少しマラソンをかじったことのある人、マラソンや駅伝に詳しい人は「どうせ失速するだろう」と冷たい視線を送りがちだ。

しかし、新田選手の快走はどうだっただろう。箱根駅伝のMVPである金栗四三杯は贈れないだろうけど、大方の予想を覆して走り切った新田選手には、それくらいの賞賛を贈ったって良い。

もちろん駅伝は、個人戦ではない。

特定の「誰か」が目立とうとして、チームの成績に影響を及ぼしてはいけない。だから最初はスローペースになり、お互いの様子を伺いながら、残り3kmの六郷橋あたりで趨勢が明らかになっていくのだ。そちらの方が離脱のリスクも小さいし、手堅いレース展開が期待できるのだ。

だからこそ、である。

新田選手、良かったなあ。こういう勇気を示すランナーが時々いるから、マラソンや箱根駅伝は面白くなるのだ。

まだまだ箱根駅伝は続く。復路、最終ランナーがゴールテープを切るまで、静かに熱く、レースの行方を見守ろうではないか。