“大好き”なのに“離れたい”(碧月はるさん #3)

ひとりになりたい。

これが、幼年期育児真っ只中の私の口癖だった。
ほんの少しでいい。なんなら1時間、せめて珈琲1杯飲む間だけでいい、なんの心配もせず、ひたすらにぼーっとしたい。
毎日、そう思っていた。

息子2人は、小学校に上がるまでの間、どちらも片時も目が離せないタイプだった。長男に至っては、小学4年生まで、学校から何度も電話がかかってきた。田んぼにダイブし、網戸を突き破り、大人も怯む高さのジャングルジムをてっぺんまで駆け上り、ためらいなく道路に飛び出す。目を離したら死ぬ。大袈裟ではなく、そういう子どもだった。

夜、寝顔を見るたびに、安堵のため息をついていた。
今日も無事に生きていてくれた。
そう思ってホッとしたのも束の間、1時間と待たずにはじまる夜泣き。特に長男はその傾向が強く、一時期は夜驚症(やきょうしょう)にも悩まされた。夜となく昼となく続く育児に、心底疲れ果てていた。そんな折、たまたま見ていたテレビから「一時保育」に関する情報が流れてきた。

「仕事以外の理由、たとえば通院やリフレッシュを目的とした利用も可能です」との文言を目にして、「これだ」と思った。近隣にある保育園の一時保育の利用状況を調べてみると、子どもの数が少ない地域だったため、予約が取りやすい状況だった。当然ながらお金はかかるが、払えない額ではない。2週間に一度、いや、月に一度でいい、ちゃんとした「休み」がほしかった。

いささか緊張しながら、勇気を出して元夫に相談をした。

「近くに保育園あるでしょ?そこの一時保育を使ってみたいんだけど……」
「なんで?仕事もしてないのに」
「あの子、全然目を離せないし、夜も寝ないし……少しでいいから休む時間がほしいの」
「母親なのに、そんな理由で預けるの?息子が可哀想だと思わないの?まだこんなに小さいのに」

保育園に預けることは、子どもにとって「可哀想」なの?その価値観は、誰が決めたの?母親が「ひとりになりたい」と願うのは、そんなにもわがままなことなの?母親は、月に一度さえも「休みたい」と思っちゃいけないの?

1 2 3 4