手書きの履歴書(ふつうエッセイ #317)

先日喫茶店に入ったら、手書きの履歴書を書いている方を見掛けた。

僕は昨年まで、企業の人事採用を担当していた。たしかに、稀に手書きの履歴書を持参される方がいたのを思い出した。

嘆息するほど達筆な履歴書もあれば、目を細めてどうにか読み解ける履歴書もあった。(書かれている内容が大事なので、字が綺麗かどうかは合否には関係なかったが)

その人は、何枚か履歴書を喫茶店に持ち込んでいた。それぞれを行き来しながら、テキパキと履歴書の記入を行なっていく。共通部分を確認しながら清書しているのだろう、なかなか手際が良く、そのプロセスだけを見れば事務職などの適性があるんじゃないかと感じた。

ただ残念ながら、「手書きの履歴書をどのように書いているか」といった中間過程が、企業側に見られることはない。書かれた内容のみ、企業の求める採用要件に合致するか問われるし、そもそも求職者が「どう履歴書を書いているのか」なんて想像を巡らす採用担当者はいない。

企業側も、履歴書のみで判別するわけではない。

Webテストを導入したり、面接時の質問項目を工夫したり。あれやこれやの手を使いながら、最適なマッチングを目指していく。

ただ思うのだけど。決して現実的ではないし推奨もしないけれど、手書きの履歴書を書くところも合否の判断材料にしても良いのではないか。その人は、おそらく1時間で10枚くらいの履歴書を書き上げることができるだろう。僕はたぶん、3枚くらいだ。書く内容もアヤフヤだし、途中で飽きてネットサーフィンしちゃいそうだ。ここだけに注目すると、3倍の生産性の高さをその人はほこっている。

まあそれでも、手書きの履歴書というのは、早晩廃れていく運命にあろう。

ただこんなふうに、ちょっと視点を変えてみると、求職者のスキルセットや性格が判明したりするわけで。手書きの履歴書も、捨てたものではないと思うのだ。

……いや、でもやっぱり、データでいただける方がありがたいかな。