「ありがとうございます」のゲシュタルト崩壊
大勢いるので、班にわかれて長い行列をつくりながら本殿へと歩きだす。向かう道では、基本的には言葉を発さずにみんな黙々と歩いていく。
ザッザッザッという石の音だけが響いている。昼の伊勢神宮もまだ見たことないのに、夜の伊勢神宮を歩いているのが不思議だった。夜風で木がザワザワと揺れている。いくつか鳥居をくぐり10分くらい歩いただろうか。最後に階段をあがって、本殿の前に全員が集合した。
しんとした静けさのなかで、代表の人の動きに合わせてまずは二礼二拍手が行われる。そしてその儀式は一斉におこなわれた。
「「「ありがとうございます。ありがとうございます。ありがとうございます。ありがとうございます。ありがとうございます。ありがとうございます。ありがとうございます。ありがとうございます。ありがとうございます。ありがとうございます。ありがとうございます。ありがとうございます。ありがとうございます。」」」
みんな一心不乱に「ありがとうございます」と唱えている。400人くらいの人間が絶え間なく唱え続けているから、大量の虫の羽音のようにぶおーんというさざめきを生んでいる。
わたしは完全に面食らった。迷うことなく「ありがとうございます」を唱える人の真剣さに。わたしも唱えてみるが、完全にうわ滑りしてしまっている。「ありがとうございます」がどんな意味だったか分からなくなり、だんだんゲシュタルト崩壊をおこしていた。