記念日に愛を祝わない(Yoshiyuki Hadaさん #4)

カノジョの言葉に戻ろう。「目の前にいる私を、助けて」と言うから、自分の成し遂げたいことと彼女を同時に守るために、強くなろうとした。強くあることが彼女を救うことだと信じていたら、今度は「みんなあなたみたいに強くない、あなたはわからない人の気持ちがわからない」と冷たく言われた。彼女の気持ちを理解したいと、寄り添ってうなずき、共感を示していたら、「私のことをわかったような口を利かないで」と突き放されてしまった。

確かに彼女はクールだった。でも、時折、ふざける僕を見て楽しそうに笑ったりもする。そしてなにより、僕は、愛されていた。彼女の愛情を感じていた。では、なぜ彼女はあんなことを言ったのだろう。それはおそらく、僕の態度。すぐに結論を出したり、諦めたり、見切ったり、投げ出したり、終わらせようとする、そんなカッコつけた態度。

そんな僕の態度とは違って、カノジョは、僕のことを、こうだよね、と決めつけたりはしなかった。そのかわり、僕のことを手放しに褒めることもしない。好きだけど何を考えているかわからない人だ、とコミュニケーションを諦めることもしなかった。カノジョは僕の話に積極的にうなずくことはしないけど、とりあえず聞く。わかろうとしていたんだと思う。そして、カノジョが僕のことを知ろうとするのは、改まった真剣な話し合いの場ではなく、普段の何気ない触れ合いから、二人の愛を確かめようとしていた。

カノジョは、記念日を重視しない。記念日の中でも、世間が決めたクリスマスやバレンタインデーへの反応は、特に冷ややかだった。彼女としばらく会えない時間があって、記念日のときだけ、花束とレストランで埋め合わせをしようとしても、彼女は嬉しそうにしつつも、感激はしてくれない。それよりも、一緒に過ごす日常が嬉しいという。大げさなプレゼントとか、演出を利かせたサプライズとか、そういうんじゃなくて、ささやかなふれ合いとかが大事なんだって。それでも、記念日を完全にスルーするとそれはそれでふてくされる。記念日でのレストランでの食事は楽しげだし、珍しく食後のデザートも食べるんだ。やっぱり、僕にはよくわからない。

記念日とか特別な日だけじゃなくて、日々の営みを大事に見出して、小さな積み重ねからお互いをわかりあうという地味だけど熱っぽい感覚。それが愛のひとつの形なんだとカノジョから教わった。僕の胸に残るカノジョの言葉は、ぎこちなくも学校の先生として生徒の前にいる今の僕の行動原理にもなっている。

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