【永遠の初恋】『冷静と情熱のあいだ』と江國香織さん(小波季世さん #1)

テーマは「恋愛」、ではなく「孤独」

熱狂的に好きな作家やアーティストがあまりいないわたしだが、江國さんは別だ。どのくらい好きかというと、江國さんの長編小説やエッセイは大体読んでいる。特に10代後半は暇さえあれば江國さんの作品ばかり繰り返し読んでいた。

きっかけは何を隠そう『冷静と情熱のあいだ』。あまりにも有名な物語なので、詳細は割愛するが、あらすじについて少し。

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順正とあおいー男女2人は、恋人だった10年前、あおいの30歳の誕生日にフィレンツェのドゥオモに一緒に行こうと約束する。その後2人は悲しい別れを迎えるが、約束は今も互いの心に残ったまま。果たして約束の結末は。東京、ミラノ、フィレンツェを舞台に、順正とあおい、それぞれの視点で描かれる「青(Blu)」と「赤(Rosso)」の物語。

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こう聞くと、恋愛小説か、と思う方もいるかもしれない。もちろん、恋愛小説なのだけれど、この小説のテーマは「孤独」と「居場所探し」だと個人的には思っている。

順正もあおいもいわゆる「帰国子女」で、家庭の事情もあり、孤独を感じ続けている人物。わたしにとってはそんな印象が強い。

(もちろん、こんな恋がしてみたいな、とか、あおいの現在の恋人・マーヴみたいな紳士はどこにいるのかな、とか、順正の現在の恋人・芽実みたいな自由奔放で情熱的でまっすぐな女性は怖いけど惹かれるな、とか当たり前のようにいろいろ考えたりはしたけれど)

この小説に出会った当時のわたしも、きっと孤独だった。

北国のとある土地で生まれ育ったが、家族は転勤族で、両親も兄妹もその土地の出身ではない。だから、先祖代々その土地出身というような同級生たちを見ると気後れした。

孤独を感じていた理由が他にもあるとすれば、小学校や中学校が大嫌いだったことだろうか。廊下に一糸乱れず整列させられたり、決まったやり方でしか勉強の「正解」がなかったり。正直言って、学校生活はつまらなかったし苦痛だった。

成績はいい方だったと思う。中学でも先生に県内一の高校への進学を勧められた。しかし、嫌味に聞こえるのは承知で告白すると、「成績がいい」というのはわたしにとって、本当に道端の石ころくらいにどうでもいい事実でしかなかった。

誰にでも、どんなに幸福そうに見える人間にさえ、一つや二つは人生の中に暗い影が指しているものだ

辻仁成『冷静と情熱のあいだ Blu』

高校はずっと行きたかった学校に進学できたが、高校入学後すぐに壁にぶつかる。「卒業後の進路」。そんなもの考えたこともなかった。ずっと地元にいる自分は想像できない。でも「ここ」以外の人生を知らないから、未来のすべてが怖かった。

ここで生まれ、長い生涯をここでずっと暮らし、おそらくはここで終えるのであろうフェデリカやジーナに、選択の余地がないということの苛酷だとやすらかさに、私はときどきとても憧れる。

江國香織『冷静と情熱のあいだ Rosso』

この一文に力強くマーカーを引いたのは、おそらく高校時代のわたしだろう。

そうして、文字通り「琴線に触れた」この物語は、数回の引越しを経ても失われることなく今でもわたしの部屋にある。物語のクライマックスは、イタリア・フィレンツェ。この遠い街にわたしはずっと憧れていた。

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