【永遠の初恋】『冷静と情熱のあいだ』と江國香織さん(小波季世さん #1)

旅」のおわりとはじまりー下北沢

それから数年後、わたしは下北沢の本屋B&Bにいた。江國さんのトークイベントに参加するために。憧れの江國さんに会えるのだから、もっとそわそわと落ち着かない気持ちになってもいいはずなのに、不思議なことに心の中はしんとしていた。それまでずっと焦がれていた感情が嘘のように。

「ああ、やっと会えるんだな」

ドゥオモのてっぺんにたどり着いた時のように、ただ静かにそう思った。

イベントはあっという間に、本当に飛ぶように過ぎた。最後はサイン会の時間だ。

持参した2冊ー『冷静と情熱のあいだ』と『彼女たちの場合は』ーどちらにサインをお願いするか、迷いに迷ったのだけれど、結局『冷静と情熱のあいだ』にサインをお願いすることにした。

初めて出会った江國さん作品だったし、何より「あとがき」に、「晴れた日の下北沢で、この、いっぷう変わった小説計画は生まれました」とあったから。それから長い長い時間を経て、下北沢で江國さんと出会えるなんて、なんだか運命的。そう思ったから。

(こう書くとなんだかすごくロマンチストみたいでいやなのだけれど、せっかく「#愛を語ってくれませんか?」というテーマなので、思う存分書かせていただきます。知り合いのみなさん、今度わたしに会ってもこの記事についてからかわないでくださいね…!)

本題に戻ろう。そう、サイン会の話。さすがにこの時はドキドキした。初恋の人に会うようなものだから。順番が来て、江國さんに本を差し出す。

「わあ、懐かしい。すごく読み込んでくださってる感じがします」

フィレンツェにも行ってきたのだというと、江國さんはわたしにこう尋ねた。

「フィレンツェ、行かれたんですね。どうでした?」

わたしは答えた。

「よかったです。行ってなんだかすっきりしました」

江國さんは軽く微笑んで言った。

「よかった」

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