そのランナーのひとりに、ダニエルがいました。
ダニエルはわたしの父より少し若いくらいのおじさんで、ランナーらしからぬ襟付きのシャツを身につけるなど所々特徴のある服装をしていました。
中でも目を引いたのはその靴。なぜかランニングシューズではなく、クロックスのようなサンダルに口に浅い靴下を合わせていました。靴を履かない理由を聞くと、ダニエルは前週に100マイルのレースに出場しており、その際に足の踵を靴擦れで痛めてしまったとのこと。ランニングシューズを履かないで完走するために選んだ靴がこのサンダルだったようです。
100マイルを走った翌週にフルマラソンを走るなんて信じられない面持ちだったのですが、わたしも前の週にチリでフルマラソンに出場したことを鑑みると五十歩百歩かもしれないと口をすぼめました。
せっかくだしとツーショット写真を撮って、お互いの健闘を祈りつつ、わたしたちはスタートラインに並びました。
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スタートラインを踏みだしてからは、さっきまでの喧騒とはうって変わって他のランナーも目の前のレースに集中するので手一杯です。気付くとわたしは群れから外れた羊のようにのろのろとアップダウンの激しい坂道と格闘していました。時折通り過ぎる車が鳴らす応援のクラクションが、ただひたすらに長く伸びる道に響きます。雲ひとつないスカイブルーから容赦ない日差しが肌を刺し、激しい坂道を走り切ると剥き出しの腕は赤く色味を変えていました。
それでもハーフ地点、ウルグアイとアルゼンチンを結ぶサルト大橋を渡っていると、国境を越えるために列を作っている車から身を乗り出して応援してくれる人や、パスポートコントロールの受付から手を降ってくれる入国審査官が、頑張れと背中を押してくれました。