駅そば(ふつうエッセイ #622)

高校時代、総じて良い思い出がない。

成績は下から数えた方が早かったし、部活の練習もキツくてドヤされてばかりだった。おまけに男子校で、恋愛する機会も皆無。友達とのバカ騒ぎは楽しかったけれど、ちょっとしたことがきっかけでめちゃくちゃに喧嘩し、ほぼ喋ることもなくなってしまっていた。

だけど唯一、僕が手放しで楽しいと思えたのは、駅で食べるそば(「駅そば」と呼んでいた)だった。

先述の友人とめちゃくちゃに喧嘩をしたわけだが、なぜか駅そばだけは共にしていた。僕はラグビー部に所属していたので、とにかく身体を大きくすることが部内の至上命令で。彼とは喧嘩する前も、よほど乗り換え時間が短くない限りは、駅そばを一緒に食べて、あれやこれやの話をしていた。

月見そばは、当時300円だっただろうか。家に帰れば夕飯が用意されていたのだけど、とりあえず駅そばは食べた。(もちろん夕飯も食べたけど)

部活で疲れた身体に、そばの出汁はじんわり身体に沁みた。

あれは、何だったのだろう。
あの、駅そばを無言で食べた時間は、何だったのだろう。

*

高校の同窓会、久しぶりに宇都宮まで足を運んだ。

同窓会まで、時間があったので駅そばを食べた。鳥インフルエンザの影響で月見そばはなかったけれど、あの頃の味の記憶が蘇った。美味かった。

同窓会に、「あいつ」は来てなかった。来てるとも思っていなかったけど、文章を書きながら、「あいつ」は何をしているんだろうと思ってきた。たぶん再会したとしても、まともに喋らないと思うけれど。そこまで、僕は人付き合いにおける甲斐性はない。