君と付き合った期間は2年もないし、
付き合う前も、別れた後も、他にも人を好きになったり恋愛はしたけれど、
君ほど印象に残っている人はいないです。
付き合う前の印象は、めっちゃ喋るやつだなって感じだった。
わたしは寡黙で背中で語るような人が好きだったから、正直対照的だったなぁ…。
付き合ってまず驚いたことは、君はいつも美味しい料理を作ってくれたことだったね。
20歳の男子学生が料理を作ることに驚かされたよ。
胃袋掴まれる、とはこのことか、と思いました。
料理を出すとき、君の手が震えていたことを今でも覚えています。
あまりにも緊張して、たまにお腹も崩していたね。
いつも本当に美味しいのに、
君は、「もう少しこうすればよかった」と後悔していたね。
君はわたしの人生において想像もつかないような出会い方をして、
わたしが張っていた境界を気にせず越えてきて、強烈なエピソードを残してくれました。
正直、ネタが多くて困ります。
付き合ってからだけど、
初めて出会ったわたしから重低音が鳴り響いて好きになった、と言っていたときは笑ってしまったな。意味がわからなかった(笑)
わたしの話に興味をもって、根掘り葉掘り聞いてくれたことを覚えています。
君と安心して話せるようになったのは、
野中広務・辛淑玉著作『差別と日本人』が話題にのぼったときだったように思います。
君が「母さんがこの本を以前勧めてくれたから読んだことがある」と言ってたよね。
そのときわたしは、自身の生い立ちやアイデンティティについても話した記憶があります。
これまでわたしは、過剰といわれるくらいに人との違いを意識してきた。
アイデンティティや見た目や家族のことなど。
きっと自分で自分を枷にはめてきたんだと思う。
勝手に境界を引いて、本当に深く付き合うことを無意識的に避けるところがあった。
君は、わたしがどんな姿であっても受け止めてくれた。
君は、大好きだよ、というメッセージをよく送ってくれたね。
何があっても君はわたしを受け入れてくれることが伝わってきました。
君は人生をどうするか、めっちゃ向き合って悩んでいた姿を覚えている。
大学を卒業し大企業に勤めることだけがゴールではないと知っている、そんな君の価値観が好きだった。
選択肢が多いからこそ悩んでいたね。
そしてマウントをとってくる年上や大人に対して怒っていたり、よく喧嘩してたね。
わたしよりも、生きることに不器用な奴だなぁ、と思ってた。
そして朝も苦手で単位も落としていたしね。
卒業の気配も全くみえなかったなぁ(笑)
当時わたしも、君と付き合っていたときは最初の会社に勤めていて自分の人生に悩んでた。
君がわたしという人間の可能性を心から信じて応援してくれたことを覚えてるよ。
年に似合わず松山千春が大好きで熱唱していたね。
君らしさが伝わってきたよ。
君にとっての幸せは、大好きな人と日常にある幸せを愛おしみながら過ごすことなんだろうな、と感じてた。
君は大学近くの1Rの部屋に同期や後輩たちなど男女問わず受け入れていたね。
君は誰に対しても優しかった。
でも優しさを通り越して共依存を生んでいるように思えて、
わたしは我慢できなくなったことも覚えてる。
君と別れてからは、ずっと外食ばかりで、食卓からも離れていた時間だったな。
コロナ禍になって、家でご飯を作るようになったとき、
君がクリスマスプレゼントしてくれた包丁のありがたみを感じた。
わたしが料理をしないのは、「包丁の切れ味が悪いからだ」といいながらプレゼントしてくれたね。
毎日使うようになってから、その意味がわかるようになったよ。
料理が今までよりも楽しくなった。
君が交通事故で亡くなったことを聞いたとき、涙がとまらなかった。
何も手につかない日々を過ごした。
あの日以来、わたしの世界は確実に変わった。
君の友人たちと、君を偲び語らっていたときに、ある話を聞きました。
亡くなる一ヶ月前に、君は映画やドキュメンタリーを好きになったきっかけを聞かれて、わたしのおかげだ、と語っていたんだってね。いま思えば、付き合う前はジブリくらいしか好きな映画がなかった君が、いつのまにか映画が好きになっていたよね。
あと君は、人生にある辛いことも楽しかったこともネタにしていこう、と語ったわたしの言葉や生き方に影響を受けたって語っていたそうだね。そのことを言われて思い出したけど、君と二度目に会ったときくらいに、そんな話をしたことをふと思い出したよ。
君の中で、わたしが生きていたんだね。
別れてから数年は経つにもかかわらず、なぜ君のことをこんなにも想うのか、と考えていたんだけれど、最近言葉になりました。
この世界の中で、君はわたしという存在をまるごと受け止めてくれた初めての存在だったんだ。
愛してくれたんだね。
わたしは君がどんな人生を歩んでいくのかをこれからも見守りたかった。
今でも日常を過ごしていても、君がここにいたら喜ぶだろうな、こんなこと言うんじゃないかな、という情景が浮かんでくるよ。
わたしは食に興味がなかった人間のはずなのに、いつのまにか、わたしもおいしいご飯が好きな人間になったんだよ。誰と食べるか、何を食べるか、を大事にしたい人間になってるんだよ。
君との日々が、わたしの中に生きているんだね。
愛してくれてありがとう。
愛することを教えてくれてありがとう。
君の愛によって、生かされた人たちがたくさんいます。
わたしはその人たちとともに、これからも生きていくよ。
ともに生きよう。
—生かされて、生きている 2021年1月17日
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