新しい自転車(ふつうエッセイ #113)

本エッセイでも、たびたび自転車の不具合をボヤいていたが、ついに新しい自転車を購入した。

僕にとって自転車は相方のような存在だ。ほぼ毎日乗るので、お互いに「調子はどう?」なんて軽口を叩く仲である。

購入したのはGIANTの自転車。わりと高価格帯のイメージがあったけれど、想定予算内に収まっていたこともあり、購入した。年の瀬に良い買い物ができたと満足している。

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まだ数回しか乗っていないが、新しい自転車が、少しずつ身体に馴染んできた。

購入当初は、スピードをあげる瞬間の呼吸が合わなかったりして、「おいおい、もうちょっと落ち着こうや」といった会話(独り言)を繰り広げていた。ペダルの押し加減というか、その辺の力学みたいなところは、前の自転車の感覚に最適化されている。

その感覚を解きほぐすには、もう少し時間がかかりそうだ。

新車ということもあり、大事に使おうという意識が高くなっている。盗難補償には入っているとはいえ、盗まれたら困る。雨にあたればチェーンも錆びてしまうわけで、なるべく大切に管理していこうと思う。

こういう感覚、使用していくうちに減じてしまうものだ。

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前の自転車は、だいぶガタがきていたこともあって、ずいぶんと、ぞんざいに扱ってしまっていた。例えば、スーパーでは鍵をかけずに駐輪していた。「盗まれないだろう」と確信していたし、何なら「盗まれたって構わないかな」という気持ちさえあった。

物とはいえ、相方だった存在である。6年前に買ったときは嬉しかったし、良いときも悪いときも身近にいてくれた。下手くそな鼻歌を歌っていても文句ひとつ言わなかったし、経営者や同僚への愚痴も黙って聞いてくれた。

そんな前の相方は、お店が引き取ってくれた。感慨なく別れてしまったことを少し後悔している。

その分、新しい相方は、なるべく大事に使い続けようと思う。定期的にチェーンに油をさしたり、ちゃんと点検してもらったり。雨が降っていたら、なるべく屋根のある駐輪場に停める。

今の「大事にしたい」感、ずっと続けていくのは至難だ。だけどアドラーに言わせれば、それが愛するってことなんだよなあ。