漫画版『風の谷のナウシカ』が問うこと(松金里佳さん #4)

旧人類の選択とナウシカの選択

腐海や墓所を作ることを選択した旧人類は、じぶんたちの「どうしようもなさ」に、もっとも苦しんできた生命でもあるのだと思います。その苦しみの末、高尚な知能と責任感によってひとつの答えを導き出しました。それは、じぶんたちが選んだ種を保管し、その生命から各自のピュアな思考を奪い、悲しい未来を避けるべく、決められた平和なレールを走らせるというものでした。

漫画版におけるナウシカは葛藤を繰り返し、最後にはこの選択を否定します。「憎しみや悲しみ、汚れとも共に生きていく」と説くナウシカ。彼女が賭けたのは、旧人類の選択ではなく、人間の本質でした。

人間のどうしようもなさ と すばらしさ

これ以上地球に負荷をかけられない。そんな時代にわたしたちは生きています。そうしたなかでわたしたちや世間は「人間のどうしようもなさ」に焦点を当てがちです。それはこの地球のあらゆる場所で、分断と対立を生んでいます。しかし、その「どうしようもなさ」をどんなに悲観しようと、それでもわたしたちは、人間のすばらしさに賭ける他ない。そのことをナウシカは教えてくれています。

では、ナウシカが見つけた人間のすばらしさとは何だったのでしょう。
わたし自身も、今回のエッセイを通して、この問いに答えようとしてきたように思います。

『タイタニック』からは、「人間は、選択できる生き物である」ということに辿り着きました。それは、ナウシカが未来の生命から選択を奪うことを否定したことに重なります。

ユーミンの『守ってあげたい』からは、「じぶんの内なる思いを信じる」ことの大切さを考えました。それは、ナウシカが、高尚な知能によって導かれた答えではなく、自問するなかで辿り着いたものに賭けた、その姿と重なります。

問いを手元に置いておく

そして、この問いに答えようと試みた経験を通して、思うことは、問いであるがゆえに、その効能を発揮するものだということです。なぜなら、想像力と思考を頼りに、悩みながら導き出したものこそ、信じたいと思うからです。だからこそ、今回でこのエッセイは終わりになりますが、これからも末長くこの問いを手元に持っていたいと思います。

もしかすると、これから先、ここに書いたことを「間違っていた!」と反省する日さえ来るかもしれません。たくさん間違えて、考え直して、よくわからなくなって、そんな風に長い年月を過ごしていくのでは、と想像します。でもいつか、わたしもその輪郭を少しでも捉えることができたら、と、そう思います。

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