蛇口から注がれるもの(ふつうエッセイ #213)

オフィスビルや公共施設などの水道は、「冷たい」「温かい」が選べないものもある。

建物全体を管轄しているエリアがあって、空調設備などと共に、適切に管理されているのだろう。

それでも、ときどき「あれ?」と思うようなことがある。

特に季節の変わり目の場合。

「うーん、まだ水道からお湯が出るよ」とか「寒い日が続いているのに、自動販売機の飲み物は冷たいものばかりだな」とか。トラブルとはいえないちょっとした困りごとは日常茶飯事だ。

トラブルではないので、苦情を申し立てることもできない。

仕方ないやな、という感じで、時が経つのを待つしかない。

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幼少期、蛇口からコーンスープが流れてきたことがある。

「あれ?」と思って水道を逆さにして飲むと、「熱っ!」と火傷してしまった。

友達も同様に火傷していたけれど、だんだん加減が分かってきたり、コップを持参したりして、美味しくスープをいただけるようになった。

驚くことに、翌日はオニオンスープが、翌々日にはトマトスープが出てきた。

今思えば、クリスマスシーズンだったこともあり、水道局による粋なはからいだったのかなと思う。

クリスマスイブには、蛇口からローストチキンが飛び出してきて、みんなで大いに盛り上がった。蛇口って、魔法みたいだなと思ったものだ。

もちろん、これらは真っ赤な嘘だけど、蛇口から、麦茶やコーラなどが出てこないかと妄想したのは「あるある」だろう。妄想とは裏腹に、蛇口からは「思っていたよりもぬる〜い水」が出てきたりする。喉が渇いているときには眉をひそめるも、次第に水は冷たさを取り戻す。このアナログで予測不能の感じが、きっと妄想の源になっている。

水道が、四季折々に完璧にフィットした水質管理によって運営されていたとしたら、子どもにとって、妄想が入り込む余地はないだろう。

ちょっとした不便さが、ちょっとした楽しみを生む。

ということで、ちょっと喉が渇いてきた。休憩がてら、蛇口をひねってきましょうか。