沖縄に住んでからは、まったくの未経験からライターの仕事をしはじめた。やりたくてやったというより、最初に付き合った男の束縛が激しくて外に出づらくなったので、家でできる仕事を探したらそうなった。勝手にライターと名乗り、勝手に書きはじめた。書くことは昔から好きだったので、スタート時点からわりといい評価をもらえた。
思いのほか彼氏よりも書く仕事の方が好きになったので、男と別れて自社メディアを運営する会社に就職した。いろんなことが未経験の私に、挑戦も失敗もさせてくれるいい会社だった。
私は仕事に夢中になった。沖縄で暮らすことと仕事に夢中になることが私の中でいい感じに作用して、少しずつ自分に自信がもてるようになった。自信がつくと自分をちゃんと大切にしたくなった。だからなのか恋愛でも大切にされることが苦手じゃなくなり、とても誠実な人と付き合うことになった。その人とそのまま結婚した。結婚するころには会社を辞めて、フリーランスになっていた。
結婚して1年後、妊娠した。これを書いている2年前のことだ。
望んだ妊娠だったけれど、思っていたよりも妊娠中は働くことができなくて、突然怖くなった。私は仕事のおかげでなにもかもうまくいったと思っていたし、フリーランスになって3年目、軌道にのってきた頃だった。仕事を手放すことは考えられなかった。
私の不安に追い討ちをかけるように、出血により流産のリスクが高まってしまった。医師から絶対安静を告げられる。何もできない、してはいけないことほど辛いことはない。情緒が安定しなくなった。その都度、夫に対して恨めしい気もちになった。仕事をなにひとつ犠牲にせず子どもが手に入っていいよねと思った。
不安はあれど、命を守らなくてはいけない。仕事相手に迷惑をかけるわけにもいかない。多くの仕事を手放した。「復帰したらまたよろしくね」とたくさん声をかけてもらったけれど、信じていいのか分からなかった。
不安で、孤独で、怖かった。私はどうなってしまうのだ。働くことで積み上げてきたものが崩れそうだ。母親になる不安も大きかった。私はよい母親になれるのだろうか。父親という存在に対してよい思い出のない私が、夫を父親として尊重できるのだろうか。
不安な気もちに反し、みるみる大きくなるお腹は愛しかった。苦しいけど、愛しい。不安だけど、会いたい。絶対に守りたい。その浮き沈みは恋愛をしているときよりもはるかに激しく、苦しかったけれど、苦しんだぶん覚悟が備わっていった。