仕事を愛した後の愛(三好優実さん #3)

22歳のとき、地元を出ることにした。

目の前の恋愛から逃げて、縁もゆかりもない土地で、ひとりでなにかをがんばってみたくなった。

とりあえず大阪に住むことにした。ここで仕事を一生懸命やろうと思った。もう恋愛はこりごりだった。だけど、自営業をしていた彼の仕事に取り組む姿勢をとても尊敬していたので、私もそういう人間になりたい、仕事をがんばってみたいと漠然と思った。

人間と違って、仕事を愛するのは簡単だった。

がんばり方が分かりやすいし、やればやるだけ評価される。できることが増えるのも楽しかった。朝から晩まで働いて、プライベートはゲイバーでしこたま呑んだ。恋愛に発展することがない人たちと恋愛話で盛り上がれるので、ゲイバーは心地よかった。ひとりでゲイバーによく行く女を「おこげ」っていうんだよ、と教えてもらい、なんだか私にぴったりな名前だなと思った。

就職した会社から東京赴任を命じられたので、東京に行った。東京がもつ人との距離感が好きで、ここで一生暮らすのも悪くないなと思った。東京でもしこたま働き、しこたま呑んだ。

働くことと呑むことが私の主なライフワークになって3年が過ぎたとき、不意に突発性難聴になった。ストレスらしい。気付けば何が原因でストレスを感じているのか分からないくらいなにもかもに全力でがんばり、なにもかもに腹を立てていた。25歳。会社を辞めることにした。長く働いた業界からも離れることにした。

会社を辞めたら、東京にいる意味がなくなった。だけどどこに行けばいいのかも分からなかった。居場所らしき場所はどこにでもあるのに、居たい場所がどこにもない。友だちに誘われるがまま、沖縄に1か月遊びに行くことにした。

沖縄で遊んでいるうちに好きな人ができた。友だちもできた。兄のように慕える人もできた。なんか息がしやすいな、と思ったけれど、それはきっと私が観光客で、ここで暮らす人たちにとっていつかいなくなる存在だからだと冷静になり、東京に戻った。だけど東京に帰って満員電車に乗った瞬間、無理だと思った。私はもう東京の人ではないのだと感じた。家を引き払って沖縄に住んだ。

1 2 3