坂道を駆け上がる(ふつうエッセイ #640)

今も昔も、自転車のヘビーユーザーだ。

長男が生まれ、保育園に通うことになったとき、妻から電動自転車の購入を打診された。僕ははっきりとノーを告げ、電動でない自転車にこだわった。おかげで、そこそこのカロリーを消費しながら自転車に乗っている。

東京は、けっこう坂が多い。

どんな場所に行くにしても、何らかの坂を経由することが多い。下り坂なら気持ちが良いが、上り坂はやっぱりしんどい。これから暑い夏がくるわけで、考えただけで脇に汗が滲みそうだ。

でも、今日の上り坂はけっこう気持ち良かった。

夜風が心地良く、半袖Tシャツから出た両腕が適度に涼んでいた。そんな中、グッとペダルを漕ぎ、頂点へと向かう。涼しい風は、むしろひんやりと冷えるくらいだが、消費するカロリーと相まって笑みさえこぼれるようだった。

坂道を駆け上がる。

10代、青春時代だけの特権だと思っていたけれど、なんのその。齢40に近くなろうとしているが、坂道を駆け上がる楽しさ、興奮はまだまだ味わえる。子どものような大人か、大人のような子どもか。線引きは曖昧。考えている間に、自転車は通り過ぎてしまうだろう。