アピール(ふつうエッセイ #646)

ちょっとだけ昔の話だが、取締役のひとりから「堀さんは、アピールすることが苦手だよね」と言われたことがある。

アピール。確かに苦手かもしれない。その前に所属していた会社では、上司から「もっとアピールしてくれないと、良い評価をつけたくてもつけられないよ」と言われていた。その発言の是非はさておき、僕がアピール下手なのは間違いなさそうだ。

考えてみれば、最初に勤めていた会社が、僕をアピール下手にさせたように思う。最初に勤めていた会社の評価面談は、とりわけ厳しかった。

社会人経験の短い僕。四半期の仕事内容をアピールしても、「それって堀さんが自分の力でやったこと?」と問われた。市場が伸びていたり、外部要因でたまたま商談がとれたりなど、自分の力でない成功体験は「再現性がない」と見做されたのだ。

若手社員の成功体験は、上司がアシストするもの。マネジャーの役割はどの会社にも共通しているはずだが、当時の会社は違っていた。とことん、再現性の高い行動特性が問われ、見せかけの成功体験は否定された。

そのやり方が、適切だったのかは分からない。ただ、言っていることはすんなり納得できた。

経験の少ない若手社員が「できる」ことなんて、たかが知れている。であれば、「できる」ことを増やすために、指示待ちでなく、自律的に動いて成果をあげなければならない。ときに突っ走ってしまうこともあったが、概ねチャンスとリスクを見極めながら、先回りして成果を出そうと行動するようになった。当時は当たり前のことだと思っていたが、意外に実践するのは難しいらしいと、転職を経験して気付いた。「想像していたよりも堀は動ける人材だ」と評価された。

厳しかった当時の上司のおかげだろう。嘘偽りなく、感謝している。

でも、相変わらずアピールは苦手だ。

冒頭の上司曰く、困難なことがあったら周りの力を借りるよう働きかけたり、「これが大変なんだ」と都度コミュニケーションとったりすべきだというのだ。自力でやりすぎる自分に「可愛げがない」ことも、飲みの席で指摘された。(「可愛げがない」なんて、シラフの評価面談では言えないのだろう。ただ、それは本音のように感じた)

「これ、できないんです」と言った方が、一般的には可愛げがあるのだろう。とある同僚の姿を見て、「ああ、ああいうのが『可愛げ』ってやつなんだろうな」と思った。僕にはできそうにない。誠意を持って頭を下げることはできるが、可愛げで頭を下げることはできない。魂まで売ることはできないのだ。

でも、2年前に創業して、アピールすることの大切さは痛いほど実感している。

可愛げのあるアピールはできない。僕らしく、不器用かもしれないけれど、「これができます!」と粛々とアピールしていきたい。実際、僕だからこそできる仕事もあると知った。その自信を、新しい仕事の獲得につなげたいと思う。