原稿が届く(ふつうエッセイ #593)

仕事をしていて、一番心踊るのが、依頼していた原稿が届いたときだ。初めて依頼した方も、何度も依頼している方も、原稿が届いた瞬間の「!」は等しくたまらない。

原稿を読む。いや、その前に、原稿を送ってくれたときのメッセージを読んでみる。書くことは、ゼロから何かを生み出すことであり、どんな方も多かれ少なかれ苦労が滲んでいるような感じがする。でも僕は、その温度感がどれくらいなのかをなるべく読み取るようにして、そして原稿に向き合うのだ。

正直なところ、原稿を読んだときの感触は人それぞれだ。無意識に期待値のようなものがあって、「すごいな、この原稿は!」と驚くときもあれば、「あれ、この人はもっと書けるんじゃないか?」と思うときもある。

でも、一番大切なのは、何を書こうとしていたのかを見極めることだ。中には複数の結論(らしきもの)があって、複雑な読後感に包まれることがある。だからこそ、これとこれとこれは、いったい何を伝えようとしているのだろう?と感じるのが重要なのだ。それが存在していれば、あとは編集や校正でブラッシュアップしていけば良い。

「編集者は、何でもできるけれど何もできない人」と、僕の編集の師・菅付雅信さんは言った。どんなに寝技が得意でも、最初の技が決まっていなければ、何にもできない。だから必死になって原石を探す。原石が原石でなければ、あんまり良い筋のアウトプットにはならない。

試行錯誤して、社会に生み落とされた作品たち。過去も、今日も、そしてこれからも、きっと「何か」として続いていくはずだ。(続けていかなければならない)

まだ未熟で未完成だけど、何とかこの旅を続けていきたい。原稿が届いたときの喜びを、もっと味わっていたいと思う。